第三章「告白」
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 以前――椎名は自分が以前告白した時のことを思い返していた。片思いをしていた彼女に告げた言葉。「好きだ」という気持ちを隠すことなく、ストレートに言い放った。恥ずかしさもある。ようやく胸につかえていたものが取れた喜びもある。そして彼女がそれを受け入れてくれた無上の喜び――。
 
 だが、椎名の目に映る矢神の顔は、以前見たその顔とは真反対の顔をしている。困ったような、迷惑そうな顔にも見て取れる。それを見ていると、胸が締め付けられる思いがした。言ってはならぬ言葉だったのか……。
 
「好き? 哲也君は私のことが好きなの?」
 
「……好きです。まだ会って間もないかもしれないけど、矢神さんのことが好きなんです」
 
 椎名ははやる気持ちをなんとか抑えながら、気持ちをぶつける。矢神に届いてくれと願いながら。
 
「私、病気持ちなんだよ? あと三年以内には死んじゃうんだよ?」
 
 分かっている――椎名にとってそれはとっくに分かっていること。彼女自身が言ったことだ。彼女が告白してくれた言葉。受け入れがたかったその言葉だが、椎名は
 
「それでもいい。それでも君が好きなんだ」
 
 受け入れることを決めた。
 
 
 三日間悩み続けたこと。いや、初めから答えは決まっていた。あとは勇気。勇気が必要だった。それを彼は三日間という時間の中で湧き出すことができたのだ。譬え彼女が死ぬ運命だとしても受け入れよう――今日はその決意を持って矢神に会いに来た。
 
 あとは彼女次第――。
 
 椎名は真っ直ぐに矢神を見つめた。


( 2013/11/17(日) 01:38 )