第三章「告白」
04
「なに笑ってんのよー」
 
「いや、矢神さんの笑顔が見れたからさ」
 
 椎名がそう言うと、頬を朱に染める矢神。どうやら彼女は、感情がストレートに顔に出てしまうようだ。先ほどまでのイタズラっぽい笑顔が消え、視線を逸らす矢神。椎名はそれを穏やかな表情で見つめる。重苦しい雰囲気は消え去った。
 
「もー。変態」
 
「なんでそうなるの?」
 
 ()ねたように言う矢神。椎名は彼女の隣に行き、沈丁花に鼻を近づける。雨に打たれながらも香る沈丁花。その匂いを嗅ぎながら、椎名は束の間の幸せを噛み締めている。
 
「ねえ、なんでここに来たの?」
 
「ん? 矢神さんに会いたいから……かな」
 
 仕返し。椎名は流れに身を任せ、自分の胸中にある言葉を素直に吐き出す。矢神がこれまで椎名に対して行ってきたように、彼もまた矢神にやり返した。みるみる頬を赤く染める矢神。どうやら仕返しは大成功したようだ。
 
「ちょっとー、冗談は止めてよ」
 
 襟足をかきながら言う矢神。視線は先ほどから彷徨っている。異性から言われる初めてづくしの言葉。彼女はむず痒さを覚えている。
 
「……冗談なんかじゃないよ」
 
 そんな矢神の様子を見て微笑んでいた椎名だが、スッと表情を戻す。
 本音を言おう――椎名は腹を括ったのだ。

( 2013/11/17(日) 01:36 )