15
――矢神視点――
嫌われちゃったかな――病院に戻った私は、結局寝つけずに朝を迎えてしまった。ドアの外からはパタパタと忙しそうな足音が聞こえてくる。おそらくは看護師さんだろう。各部屋に朝食を運んでいるはずだ。もう少しで私の部屋にも来るのかな?
「ああ、もう」
この部屋が個室でよかった。私が夜中に抜け出しても誰にも見つかることはないし、好き勝手なことができる。これまでは大部屋だったが、私の余命があと三年以内だとお医者さんから知らされた両親は、私を個室に移してくれた。
小さい頃からお金がかかった娘だというのに、更にお金をかけさせてしまった。申し訳ない気持ちもあるが、最後ぐらいはね、という気持ちもある。ありがたく好意は受け取っておこう。……おそらく返せないけどね。
それにしてもだ。昨夜はせっかく哲也君と会えたというのに、私はついに秘密を言ってしまった。今になって後悔をする。このまま、普通に“友人”として付き合えばよかった。
雰囲気――そうだ、雰囲気が原因だ。彼があんなことを言うものだから、私が言わなくてはならなくなってしまった。おまけに男のくせに泣くなんてね。それじゃあ彼女に浮気されるわけだ。
――バカ。
泣き虫で彼女に浮気をされるような、
甲斐性なしのバカ男。……だけど、優しいんだよね。その優しさに甘えてしまえば……。
止めた方がいいわよね。こんな女なんて。私は長くは生きられない。お互いが悲しい思いをするだけ。
――忘れよう。哲也君のことは。
私はベッドから起き上がり、カーテンを勢いよく開けた。