04
そんなにスマホが珍しいのだろうか? 「へー。へー」と感嘆な声を上げながら、子供がオモチャで遊ぶかのように、キラキラとした顔でスマホを
弄っている彼女を見ながら椎名は思った。このご時世さほどもの珍しいものではないのだが、矢神は飽きる様子などまったく見せないでいる。
「矢神さんは、スマホは持ってないのですか?」
「持ってないよ」
視線はスマホに向けながら矢神は答える。別に見られて困るものはないのだが、人に見られるのはいい気持ちがしない。まして初対面だ。そろそろ返してほしいところだが、彼女のキラキラした顔を見ていると、つい言うのを
躊躇っている。
「もっといえば、携帯自体持ってないんだ」
「そうなんですか?」
今や誰でも持つ時代になった携帯電話を持っていないとは。今年、喜寿を迎えた祖母ですら持っているというのに……。自分とさして変わらぬ歳であろう彼女が持っていないことに、椎名は軽いカルチャーショックを覚える。
「持っててもしょうがないからね……。はい」
声が一段と暗くなったのを椎名は見逃さなかった。だが、初対面の人にそこまで踏み込んで聞いていいものかと
逡巡してしまう。そう思っているとスマホが返ってきた。ふと画面を見ればメール画面になっている。
「だから私とメールのやり取りとか、電話のやり取りは残念ながらできないよ。せっかく女の子とメールできるチャンスだったけどね」
間違いなく矢神は自分のメールを見た。男友達しかメールのやり取りはしていない椎名は恥ずかしさに加え、勝手に人のプライバシーを侵害されたことに怒りを覚える。