12
「そうなんだ。変なこと訊いてごめんね」
「ううん。いいよ」
気まずい空気が流れる。こういう時に男らしくリードをしてあげたのなら……。椎名は不甲斐ない自身に腹が立つのを感じる。これでは彼女に振られるわけだ。そう思うと、心の中で自嘲する。頼りない男。無力な男。自分を卑下しながら歩く。
横に並ぶ彼女の様子が気になる。椎名はチラリと矢神の顔を見た。月光に照らしだされる顔。妖艶な雰囲気を身に纏ったその顔からは、彼女の心の中を読むことができない。ただ「かわいい」とだけ思っただけで、視線を前方に戻した。
「そういえば、高校ってどんなところだったの?」
いきなりの矢神の問いかけに、椎名の口から「へっ?」と上ずった声が出てしまう。身の上話に花が咲いた際、椎名と矢神は同い年だと知ったはず。彼女は中卒なのだろうか? 椎名はそんな疑問を抱いた。
「だから、高校ってどんなところだったの?」
「どんなところって……矢神さんも知ってるでしょ?」
「ううん。知らないんだ……。私、何も知らないんだ……」
顔をフルフルと横に振る矢神。その顔は沈んでいる。今にも泣き出してしまいそうな雰囲気を察した椎名は立ち止まってしまう。それを見た矢神の足も止まる。顔を俯かせる矢神。椎名はどうすればいいのかと固まってしまう。無力な自分への腹正しさを感じながら。
「……ごめん」
この言葉が正解かどうかは分からない。何かを言わなければならないと思っていた椎名の口から出た言葉。他に言葉が見つからない。これが彼女なら――抱きしめることが出来ない自分が唯一出来ることはなんだろうかと彼は悩む。