第九章「お友達」
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――小木曽視点――

 何やら病室が騒がしい。木崎ゆりあちゃんの病室。確か高校生で、部活中の怪我により、入院をしてきた患者さんだ。同級生でも来ているのだろう。年頃の子が、病院に居ては退屈してしまうのは当然のこと。見過ごしてやりたいが、他の入院患者さんもいる手前、注意しなければならない。まあ、私が見過ごしたところで他の誰かが注意するだろうが。
 
「木崎さーん。聞こえます? 木崎さーん。入りますよ」
 
 何度かノックをしたが、その音は笑い声にかき消されてしまっているようで、一向に返事がない。痺れを切らした私は、そのままドアを開けた。
 彼女の病室には、見知った二人がいた。久美ちゃんに哲也君。彼は無事に久美ちゃんを見つけられたようだ。そのことに安堵する。
 
「あらあら。賑やかなことで」
 
「あっ、小木ちゃん」
 
 ドアの開閉に気付かなかったようだが、私の声には気づいてくれたようだ。久美ちゃんの表情や、声のトーン、雰囲気から、彼女がとても機嫌がいいことが伝わって来た。
 
「二人とも仲がいいわね」
 
 久美ちゃんとゆりあちゃん。確かゆりあちゃんの方が年下のはず。だが、年齢が近いことに変わりはない。二人が仲良くなることは、安易に想像が出来る。
 だが、次の言葉で、私の全身に衝撃が走った。
 
「そうだよ。なんていったって、私とゆりあちゃんはお友達だもん。ねえー」
 
 久美ちゃんにとっては何気なく言った一言。他の人が言ったのならば、ごく普通のこと。しかし久美ちゃんは。溢れ出しそうになる涙を何とかしてせき止める。椎名君と目があったが、彼は無言で頷いてくれた。私の喜びを分かってくれる子。こんな場面で泣くわけにはいかない。
 私は顔が変わるほど笑って見せた。だが、目尻に溜まった涙は消えてはくれなかった。


■筆者メッセージ
以上で第九章は終了となります。
次章が最終章となります。
今週末に更新する予定です。
( 2013/12/23(月) 18:14 )