第九章「お友達」
07
 病室には先ほどとは打って変わって、静謐(せいひつ)な空気が流れている。椎名はそれがなんとなく居心地悪く感じ、空気を入れ替えようと話題を振った。
 
「そういえば、二人はいつもどんな話をしているの?」
 
 彼が尋ねたのは、自分がいないときの話題だ。俗にいうガールズトーク。野暮かもしれないが、適当な話題が見つからず、椎名は尋ねてみた。
 
「えー。なんだろう? 恋バナとか」
 
「そうですね。それが一番多いかもしれません。あとは、お店の話とか。聞いてくださいよ。久美さん、全然お店とか知らないんですよ」
 
「しょうがないじゃん。病院にいる時間が長かったんだから」
 
 頬を膨らませながら言った矢神だが、明らかに表情は明るい。椎名と話している時とはまた違った顔。
 じゃれ合いを始める二人に、椎名は「飲み物を買ってくる」と言って、席を外した。彼の耳朶(じだ)に「ミルクティーね」「私はコーラでお願いします」と聞こえたのは、それからすぐのことだった。彼は返事の代わりに、右手をスッと上げた。
  
  
  
「はい。ミルクティーとコーラね」
 
「ありがとう」
 
「テンキューです」
 
「ゆりあちゃんかっこいい!」
 
 現地人のように言ったつもりなのだろうか。木崎の言葉に椎名は疑問を抱きながらも、それを追及することはなかった。
 しかし、矢神はそれに反応をしてしまった。嫌味でもお世辞でもなく、彼女は素直に木崎の発音を褒めた。木崎は満更でもなさそうな顔をしている。


( 2013/12/23(月) 18:12 )