04
だがそれは違った。驚いて久美は哲也の顔を見た。哲也はテーブルに肘をつき、目元を手で覆い、
項垂れている。
「でも、ミスの一度や二度当たり前じゃない? 哲也君だって完璧人間じゃないんだし」
「一度や二度じゃないんだ。ここ最近ミスばっかりしているんだよ。このままじゃクビになるかもしれない」
入社以来哲也がそんなことを言うのは初めてだった。久美は頭を鈍器で殴られたかのような衝撃を受ける。が、落ち込む哲也の手前そんな素振りを見せるわけにはいかず、努めて明るく
繕う。
「そんな日もあるって。ね、今日はもう寝よう。疲れてるんだよ、毎日遅くまで仕事をしているからさ」
哲也の肩を掴むと、こんなにも細かったのかと久美は思った。思えば最近元気がなかったし、食欲もなかったことを思い出した。
失格だ。久美は哲也のそんな変化に気が付かない自分を恥じた。これでは一緒に住んでいるただの居候のような人間になってしまう。いつまでも哲也におんぶに抱っこではいけないと思ったはずが、いつの間にか優しい彼に安住している自分がいた。
「ほら、もうお風呂も入ったんだし、歯磨きをしてきなよ。後はやっておくから、ね」
肩を何度も揺さぶると、哲也はようやく重い腰を上げた。酔っているのか、疲弊しきっているのか分からないが、哲也の足取りは重く、フラフラとどこか頼りない。久美はそんな哲也の背中を心配そうに見つめると、やがてテーブルに並ぶ残った料理を片付け始めた。
「哲也君、入ってもいい?」
後片付けを終えた久美は哲也の部屋の前にいた。彼がどうしても心配だった。ノックをすると返答があったので、中へと入った。
いつも入っている哲也の部屋。だが今日はアルコールの臭いがプンと漂った。その臭いを発している張本人はベッドに寝転んでいる。
「どうしたの?」
「うん、ちょっと心配で……」
哲也が横にずれたところに久美は座った。彼が寝ていた温もりが臀部から伝わる。
「久美は心配性だね。昔からそうだったっけ?」
「哲也君の心配性が移ったのかもね」
そのまま体を寝かす久美。やはり隣からはアルコールの臭いが漂う。が、哲也のにおいだとすると、不思議にもそれが不快ではなかった。これが惚れた弱みというやつか。久美はそう感じた。
「……もしかしたら今回はダメかもしれない」
「どうして?」
その返答が返ってくることはなかった。哲也は寝てしまったからだ。久美は自分も部屋に戻ろうと思ったが、体が動かなかった。心配でしょうがないのだ。
抱きつき枕のように哲也の体に巻きつき、久美は寝ようとした。しかしいつまで経っても眠気は襲って来なかった。