08
翌日から哲也は会社を休んだ。事故処理がまだ完全には済んでおらず、その対応と事故後のため会社から休むよう言い渡された。
「平日に休めるなんて久しぶりだよ」
いつもより遅く起きた哲也は寝巻のままリビングでコーヒーを飲んでいた。新聞を読んでいるが、首のコルセットが邪魔に感じる。
「たまには休みなさいって神様からのメッセージじゃない?」
「そうかな? だといいんだけど」
遅めの朝食を食べ終え、哲也は新聞を置いた。体を思い切り伸ばすが、やっぱりコルセットが邪魔だ。
「これ本当に邪魔だなあ」
「しょうがないよ。でもそれって犬も付けているよね」
「なんかエリマキトカゲになった気分だよ」
コルセットを付けてまだ一日も経っていないが、哲也はもううんざりしている。久美はただ苦笑いを浮かべた。
「そうだ。手続きを終えたら久しぶりにデートをしない?」
「いいけど、でも大丈夫なの? 安静にしていなくて」
「大丈夫だよ。そんな激しい運動をするわけじゃないし。バイトも休んだんでしょ? ゆっくりデートが出来るよ」
久美は哲也に合わせ、アルバイトを休んだ。急遽の申し入れだったが、マスターは二つ返事で了承をしてくれた。料理教室も大学もこの日はなかった。
哲也の身を心配だったが、本人が大丈夫だと言い張っているうえ、見た目も元気そうだったので久美はデートに行くことを決めた。
「うん、哲也君がいいなら行きたいな」
「よし。そうと決まれば準備しよう」
二人は準備を始めた。不安げな表情を見せていた久美だが、久しぶりのデートということもあり胸が高鳴っていた。
「え? 車で行くの?」
準備を終え外に出た二人が向かったのはレンタカーショップだった。近場だと思っていた久美は驚く。
「せっかくの休みなんだし遠出をしようよ」
「でも昨日事故に遭ったばかりだし……」
嫌が応でも昨日のことが蘇る。軽傷だったとはいえ、哲也はコルセットを巻いている。久美は不安に襲われた。
「大丈夫だって。久美は心配性だな」
「そんなことを言っても……」
「大丈夫。もう事故は起こさないし、巻き込まれない。俺を信じて」
確信に溢れるその言葉にただ久美は頷くしか出来なかった。
「よし。温泉とかテーマパークはちょっと無理だけどドライブデートも悪くないよ」
スタスタと店内に入って行く哲也の背中を見つめ、久美はその後を追った。