03
午前十一時から午後二時まで。久美は平日週三日で働くことが決まった。久美はもっと働きたいようだったが、彼女の事情を知るマスターはしばらくそれで様子を見るとした。哲也としてはマスターの気遣いがありがたかった。
正式にアルバイトが決まった久美はとても喜んだ。自分で一つ一つレールを敷くのが相当嬉しいようだ。
「どう? 似合ってる?」
「似合ってるよ。でもやっぱりその制服なんだね」
「何かまずいの?」
「いや。そういうわけじゃないけど……ね」
真新しい制服を久美は当日まで待てなかったのか、家ですでに試着していた。嬉しそうにクルクルと回転しながら哲也に感想を求めるが、哲也から返って来る言葉は鈍い。
それもそのはず。久美が着ている制服は、二人が初デートで訪れた時にゆりあが着ていたものとデザインはあまり変わっていなかったからだ。メイド喫茶の店員が着ているような制服に、正樹は釈然としない気持ちになった。
「マスターはこういうのが好きなのかな……」
「さあ? でもかわいいからいいんじゃない」
そんな哲也をよそに、久美は制服を気に入っていた。学生服を着たことのない彼女にとって制服は憧れでもあったからだ。
「これで猫耳を付ければ完璧だね。いらっしゃいませ、ご主人様」
哲也はただ乾いた笑い声を出すしかなかった。
「まあ、久美がいいんだったらなんでもいいか」
「そうよ。贅沢は言っちゃいけません」
そんな哲也の気持ちを分かっているのか、いないのか、久美はビシッと言い放つと鼻歌を歌いながら自室へと戻って行った。
久美の来襲を受けた哲也は一人きりの部屋となった自室で、机の引き出しから雑誌を引き抜くと、パラパラとめくり始めた。
「そろそろ……かな……」
誰に言うでもなく、哲也はポツリと呟いた。