第一章
09
 さんざん遊んだ二人は哲也のベッド上で落ち着いた。ゴロリと横になり、荒い息遣いをしながら天井を見上げる。
 
「なんかこういうのって久しぶり」
 
「ん? ああ、そうだね。ごめんね。ここのところ忙しくて」
 
「しょうがないよ。私のために働いてくれるんだもん」
 
 繁忙期を迎えた哲也の会社は大忙しだった。哲也は毎晩のように終電で帰宅し、休日出勤も多かった。若いとはいえ、久美は哲也の体調を心配した。自分が哲也に出来ることはなんだろうか? 久美は自問し、食事量を増やした料理の提供と、哲也が帰宅してからの笑顔で迎えることを徹底することに決めた。
 久美は二年ほど前から料理教室に通っている。退院後、習い事をしたいと言い出した彼女に小木曽が勧めたのだ。久美は小木曽の勧めを素直に聞き、料理教室に通い出した。
 
 料理教室では、久美が入ったクラスでは彼女が一番年下だった。平日昼間のクラスということもあり、全員が主婦であった。子育て中の主婦や新婚の主婦、子育ても一段落し、自分の趣味の時間にと料理教室に通っている主婦もいた。
 年上の主婦たちに囲まれながらも、久美は料理教室を楽しみながら通っている。時には彼女たちとお茶をしに行くなど、交流もあるようで哲也はそのことに喜んだ。そのかいあってか、久美の料理の腕前はめきめきと上達し、今では料理上手と呼んでもおかしくないほどの腕前になっている。
 
「ねえ、まだ仕事は落ち着かない?」
 
「うーん。しばらくは忙しいと思う。新人さんの教育も任されてるし」
 
「じゃあ今日休みをもらうのも大変だったんじゃない?」
 
「それは前から休ませてくれって頼んでいたしね。おまけに今日は、本当だったら休日だよ? たまには休まなくちゃ体がもたないよ」
 
 哲也は嘘をついている。久美は直感した。本当だったら今日は休日出勤を言われていたはずだ。それを自分の入学式のために休んだのだ。久美はそう直感し、胸がポッと温かくなるのを感じた。
 不器用な人。それがまた久美にとって愛おしかった。久美は立ち上がり、電気を消す。真っ暗になった部屋だが、哲也目がけ飛び込む。
 
「うわっ」
 
 風呂上がりの哲也の体は温かく、シャンプーやらボディソープの匂いがする。
 
「そのお礼に今日は久美さんが一緒に寝てあげましょう」
 
 引っ越ししてから初めて二人で寝る夜。久美は照れを隠すためにわざとらしく軽い口ぶりで言った。


■筆者メッセージ
メリークリスマス♪
( 2013/12/25(水) 21:05 )