01
山下瞳月さんと出会ったのは同じゼミだった。日本人形のように真っ黒な髪は遠目から見ても艶が出ていてアーモンド形の目は猫を彷彿とさせるようだ。
出席者の欄に名前を各自記入する際にどんな名前をしているのだろうと確認すると名前に月が入っていて、僕は雷に打たれたかのような衝撃を覚えた。
人を好きになったことはこれまでなかった。けれど彼女に会った瞬間、恋に落ちるという言葉は当たらずも遠からずだと知った。
言わんとしていることはわかる。けれど僕は落ちたというよりも雷に打たれたというほうが正解だった。
それからは彼女のことを思い浮かべる日々が始まった。地方から越してきたようでこちらには知り合いがおらず、かといってあまり社交的ではないのか親しげに話す友人もいないようだった。
近づくチャンスはいくらであった。彼女ほどの美貌ならすぐに男たちが取り囲むに違いない。爽やかないかにも春に吹く心地のいい風のような顔立ちの整った、どちらかといえば中世的な男か。はたまた灼熱の夏をほうふつとさせる黒く焼けた肌が特徴的ないかにも男といった男が来るのか。
予想に反して瞳月さんの周囲には男の影はほぼなかった。大学生活が始まって数か月が経とうとしている頃に彼女の周囲にいるのは同性が数人程度だった。
もしかして地方に彼氏がいて遠距離なのか。僕の頭の中はいつも彼女で占める日々は続いている。終わりのない疑問符は底なし沼のようにあふれ出てくる。
「あっ、すみません」
廊下ですれ違う際同じ方向に避けてしまい、彼女はそう言って僕のことをチラリと見るとすぐに横を通り過ぎた。彼女が過ぎた瞬間、遅れて甘ったるい匂いがした。
振り返ると彼女の姿はもうなかった。匂いもすぐに消えてしまった。けれどあの一瞬だけあったあの目。猫のような丸い目は確かに僕のことを捉えていた。
夢じゃない。
僕は帰り道空を見上げた。
しかし空は厚い雲に覆われていて月が見える夜ではなかった。