本編
08
 またテレビ画面からはCMが流れ始めた。菜緒はリモコンを手に取るために僕から離れた。が、テレビを消すとまた僕の肩に頭を置いてきた。

「いい加減肩こりで死んじゃうよ」

「肩こりで死んだ人なんておらん」

「じゃあ、僕が最初の犠牲者だ」

 また鼻歌が聞こえ始めた。どうやら退くつもりはないようだ。

「あのドラマな、打ち切られるらしいで」

「そりゃあそうでしょ。だって何の盛り上がりもなかったし」

「打ち切られた後、どうなるんやろ」

「監督がみんなに謝るんじゃないの。知らないけど」

「いや、そういう意味やなくて」

 人間の頭というのは案外重たいものだ。さすがにこれ以上は辛いと体を揺らすと重みがなくなった。

「ドラマでも漫画でも必ず終わりってあるやん、ハッピーエンドでもバッドエンドでもそうなんやけど、終わった後のことを考えてまうんよな」

「終わった後?」

 首を回しているとグキグキと鈍い音がした。両腕を挙げて体を伸ばすと腰がピキっと音を立てた。

「そ、終わった後。めでたしめでたしってなった後よ。当たり前やけどそこから先も物語って続くわけやん。描写されないわけで。ドキュメンタリーでいえばそこで終わったとしても、人生はまだまだ続くわけやろ。それをドラマに置き換えると、終わった後のことが気になるんよ」

 体育座りをしながら滔々と語る菜緒。視線は床へと向けられている。

「ドラマや漫画はそこで終わるからいいんじゃないか。終わりがあるからこそ面白いんでしょ」

「時々な、気になるんよ。さっきのドラマやったら主人公の店に最初に来たお客さんと付き合って結婚したとするやん。で、子供持つやん。裕福ではないけど幸せな日々を過ごしてますって終わるとするやん。わーめでたしめでたしって拍手喝采の中、思うわけよ。『この人ら、この後どういう人生を送るんやろう』って。たとえば未知なる病原菌が流行ってそれが空気感染から広がると確認されて、飲食店が閉鎖されるとするやん」

「今みたいな話じゃないか」

「そやで。悪くもない飲食店が標的にされてお店を畳まらざるを得ない状況になったとするやん。幸せだった一家を襲う事件なんやけど、彼らは一体どうなってしまうのかって考えてまうんよな」

 相変わらず床を見つめたままの菜緒は真剣な顔つきだ。たらればの話なのに。

「そしたらまた物語が始まるんでしょ。セカンドシーズンみたいな。でも、あまり続けないほうがいいと思うけどな」

「なんで?」

 菜緒と目が合った。アーモンド形の形のいい瞳が真っすぐに僕を捉えている。

「物語っていうのは終わるからこそ美しいと思うんだ」

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■筆者メッセージ
気が付けば八月ももう後半ですね。
早いものです。
( 2022/08/20(土) 23:35 )