03
ゲームのような人生だったらどれだけよかっただろう。何度ゲームオーバーになろうともセーブポイントからまたやり直せる。それなのにどうして人は一度きりの人生しか歩めないのだろうか。
本当はセーブポイントがあってやり直せるのでは? 道行く人々の中にはこれが二度目の人生の人もいるのではないか。
薬の効果が現れ始めたのか吐き気が込み上げてきた。「これを飲み続ければ絶対治るから」と言われて我慢してその言葉を守っているはずなのに私の体は一向に良くなる気配を見せない。
これならいっそのこと殺してくれたほうがましなのに。そう思いながらもいざ母や父を前にするとそんなことを口が裂けても言えなくなってしまう。
子供の頃から病気がちだった。病院と自宅を行ったり来たり。学校なんて数えるほどしか行っていない。登校日数だけで言えば小学校はおろか幼稚園も卒園できるかギリギリだろう。
まともに通っていれば高校二年生。学校やバイト、部活にもしかしたら恋人が出来て大人の階段を上っている頃だ。
それなのに病院のベッドで毎日毎日飲みたくもない薬を飲まされてゲーゲー言いながら生きているこの人生に果たして意味などあるのか。
私のセーブポイントはどこだろう。リセットすらできない自分の人生を自嘲すると、一気に吐き気が込み上げてきて近くにあったゴミ箱へと嘔吐した。
胃の中に食べ物なんてないから胃液だけが出た。酸っぱくて臭い。悲しいわけじゃないのに涙が出てきた。
ナースコールを押すとすぐに看護師の方が来てくれていつも通り処置してくれた。
「山下さん大丈夫?」
「大丈夫です」
何が大丈夫で何が大丈夫じゃないのか。もう私にはその境界線が分からなくなっていた。とりあえずいつも通りのことなので大丈夫ということにすると、看護師の方は部屋から出て行った。
「死にたい。けど、死にたくない」
もっと違う人生だったら生きたい。今のままなら生きていたくなかった。口に出せば叶う気がした。
せめてこれぐらいの願いを叶えてくれてもいいじゃないか。何度もセーブポイントからやり直せる人生。
私はそれを願った。
何度ゲームオーバーになってもまた特定のセーブポイントからやり直せる人生を。