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待ち合わせ場所が近づくにつれ、本当にここで合っているのか不安になった。高速道路のインターチェンジを過ぎた山道である。
まさかラブホテルじゃあるまい。そう思っていた予感が的中した。背後から車が続いていたため路肩に止めるわけにはいかずそのまま敷地内に入った。
待ち人はそこにいた。建物の前で僕を見つけるなり無邪気に手を振ってきた。窓を開けると、こっちが空いているといわんばかりに駐車スペースを指さした。
仕方がないのでそこへ止めると、ドライブレコーダーの電源を切っておけばよかったと後悔した。こんなところを見られてしまっては浮気を疑われるのは明白である。
「やっほう。元気?」
当の待ち人である愛佳はそんな僕の心情など露知らずといった様子だ。
「『元気?』じゃないって。なんでこんな場所を待ち合わせ場所にしたんだよ」
「いいじゃん。予約してくれたんだし」
「予約? そんなものした覚えはない」
「まあまあ。募る話は中で。今ならフリータイムよ」
愛佳に背中を押されながら建物の中へと入った。
「どういうつもりだ」
ディスプレイに映る部屋の内装。愛佳は指をクルクルと回しながらその中の一つを選んだ。
「どういうつもりなんだ」
そのままエレベーターに乗り込むと愛佳は黙って抱き着いてきた。愛佳からは甘ったるいにおいがした。
「なあ、答えてくれよ」
部屋の中へ入ると、愛佳はまた抱き着いてきた。
「私ね、デリ嬢なんだ」
「は? どういうことだ」
頭の中がぐしゃぐしゃで思考が追い付かない。デリ嬢と今の状況が結びつかなかった。
「修一君、姫予約してくれたじゃない」
「姫予約? なんだそれ」
「お店を通さずにデリ嬢に直接予約をすることだよ。本当は知ってるんじゃない?」
「知らない。風俗なんて行ったことがないから」
本当だった。大学生で美月を知ってしい、風俗を経験したことがないまま年を重ねてきた。
「美月の束縛が激しいからでしょ」
「そういうわけじゃない。離せって」
愛佳の両肩に手を添えて引き離そうとするも、渾身の力で抱きしめられているために引き離せなかった。
「私ね、ずっと修一君のことが好きだったの。ずっと」
ふいにそんなことを言われ、僕は思わず視線を下げた。すると愛佳の顔が至近距離にあった。
潤んだ瞳。わずかに赤みを帯びた頬。真っ赤に塗られた唇。あの祭りの日よりも愛佳は官能的で艶めかしいほどの色気を帯びていた。
「わかる? 私の気持ち。ずっと好きだったのに全く振り向いてくれない寂しさ。あなたの目はずっと美月ばかりが映っていた。私なんて眼中になかったのよね」
「だからってこれは……」
「お願い。今日だけ。今だけでいいから私のことを見て……」
心臓が早鐘を打ち始めた。思考が追い付かず、オーバーヒートしてしまったように頭の中が真っ白になってしまった。
ただ愛佳の柔らかくて瑞々しい唇の感触だけは唇越しにハッキリと伝わった。