03
どうしてこうなってしまったのか。寝付けずにビールを飲みながらどこで道を間違えたのかと過去の出来事を回想する。
美月とは大学で知り合った。同じゼミにいた美月は黒髪ロングで猫のような目をしていた。人を――特に男をその気にさせる術を心得ていた美月はすぐに男たちから言い寄られた。
しかし誰一人としてその求愛を受け入れなかった。にもかかわらず彼女のことを誰も悪くいう人間はいなかった。
『魔性の女』
いつしか彼女はそう呼ばれていた。人懐こい野良猫のくせに飼い猫にしようとしたらサッと逃げてしまう。美月はそんな女性だった。
だから玉砕覚悟で告白をしたとき、まさか自分が受け入れられるなんて夢にも思っていなかった。何かの間違いかと思った。
「私も修一君のこと気になってたんだよね」
ニッコリと微笑む美月。思えばあの時から僕たちの関係は決まっていたのかもしれない。
周囲に羨ましがられながら美月と並んで大学へ向かう。道中の視線は最初こそ抵抗感を覚えたが、次第に優越感へと変わっていた。アイドル顔負けの美女と付き合っている自分に酔っていたのかもしれない。
デートを重ね、肉体が繋がった時の衝撃はこれまで生きてきた中で一番といっていいほどだった。避妊具の中に大量のスペルマを吐き出し彼女に笑われてしまったことも今となってはいい思い出だ。
行為後のピロートーク。お喋り好きな美月が一方的に喋って僕はそれを聞いているだけだったが、幸福感に満ちていた。
本当は聞きたいことが何個かあった。これまで誰と付き合っていたのか。もし付き合っていたとしたらその男と何回セックスをしたのか。初体験は。どこで、誰と。
しかしそれを知らないほうが幸せな気がして僕はあえて聞かなかったし、美月もそれを言ってくることはなかった。
知りたい欲求に蓋をした。そんなことよりも今の美月を受け入れよう。僕を受け入れてくれたように。
一方的に喋った美月は喋り疲れたのか寝てしまう。いつだって美月の方が先に寝てしまうのだ。僕は彼女の寝顔を見てから眠る。
そうするといい夢が見られそうな気がした。