06
美月のいない生活。きっといつかそうなるんじゃないかと思っていたはずなのに、いざそれが現実になると心の中が空っぽになってしまったかのようだ。
空虚な空。重たい鉛雲は今にも雨が降り出しそうで、風が冷たくなってきた。
「ようやく見つけた。もう何回携帯鳴らしても全然出ないんだから」
僕は声がしたほうへ振り向く。声の主は愛佳だった。
「なんだ、愛佳か。どうした」
「もう。大学にも来ないし携帯をいくら鳴らしても出ないし。ショックなのはわかるけど、そろそろ日常に戻ってこないとまずいんじゃない」
「ああ。そうだね」
美月が死んで僕は大学へ行かなくなった。たまにアパートから出て美月がいた病院の周りを歩き回って、最後は海辺へ行く。
特に決めていないのにいつだって最後は海辺へ足が向いていた。感傷的になれる場所は僕にとってそこのようだ。
「大学、辞めるつもり?」
この日もそうだった。夕方ぐらいまでアパートにいて、病院を何周か歩き回っていつもの海辺まで来た。
「別に。愛佳には関係ないだろ」
「そうだけど。でも心配ぐらいしたっていいじゃない」
「悪いとは言っていない」
愛佳が隣に来た。高校卒業後、僕と美月は大学へ進学したが愛佳は就職をした。バイト先のアパレルショップにそのまま就職したようだ。
隣に並ぶ愛佳は社会人として奮闘しているようで、なかなか大変な毎日を送っていると美月から聞いた覚えがある。そういわれれば確かに愛佳の顔つきはほんの数年前とは違うように見えた。
「美月がいなくなってショックなのはわかるけど、修一君だって人生があるじゃない。忘れなよとは言わないけど、引きずりすぎない方がいいと思うの」
「うん」
「美月だってそれを望んでいるわけないと思うし」
正直、愛佳の言葉は全くと言っていいほど刺さらなかった。右耳から左耳へすぐに抜けて行ってしまう。
けれど愛佳に抱きしめられ彼女の体温は伝わった。
そして唇の柔らかさも。