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辺りが騒がしくて目が覚めた。顔を上げると美月が笑っていた。
「どんな夢見てたの? ガクンて体動いていたけど」
「なんか階段から落ちる夢」
「危ない。夢でよかったね」
椅子に座ったまま上半身だけを伸ばす。どこかの関節がポキっと音を立てた。
「でもなんで階段から落ちる夢なんて見たんだろ」
「時代劇でも見てたんじゃない。こう剣で斬られて階段から落ちるシーンとかあるじゃん」
「それ昨日のドラマの内容じゃん。あーでもそれが原因なのかな」
先々週より始まった新ドラマはいきなり高視聴率をたたき出している。野球選手がある日タイムスリップして江戸時代に迷い込んでしまい、元の時代に帰る方法を探すがてら野球を広めようとする物語だ。
昨日放送された内容ではひょんなことから江戸城へ侵入するも見つかってしまい、斬られがかって階段から落ちたが辛うじて逃げ切れたという内容だった。
「でもあれ傑作だったよね。ドラマであれだけ笑ったの初めてかも」
「恋愛要素は一切ないドラマだって言われてるしね」
「でもあれはなくていいと思う。あれで恋愛要素があったらそれこそカオスだし」
美月が言うやチャイムの音が鳴った。どうやら自習のほとんどを寝てしまったようだ。次の授業は移動教室のため、クラスメイト達はぞろぞろと教室を出ていく。
「放課後、空いてる?」
「空いてるよ」
僕の言葉に美月は口角を上げた。
「じゃあさ、寄り道してかない? 最近新しいケーキ屋さんができたんだ」
美月は新し物好きなのか、お店ができるたびこうして誘ってくる。
「相変わらず情報が早いな」
きっと美月の頭の上には目には見えないアンテナが張られているのだろう。感心する僕に美月は満足そうな顔をした。