「始まり」
05
 山下美月とは幼馴染だ。家が近所で高校まで一緒なのは周囲から付き合っているのかとこれまで何十回も聞かれてきたことだ。
 そのたび否定してきた。少なくとも僕は。美月はたまに「どうでしょう」と匂わせているらしいが、彼女の考えることはまるで分らない時がある。

 志田愛佳とは高校に入ってから知り合った。席が隣で、なんとなく馬が合った。自分本位で掴みづらい美月とは違って、愛佳は話していて楽しい存在だ。
 学校生活も一年が経とうとしている。進級が迫っているが、出席日数もテストでの点数も問題ない。

 アルバイトが入っていない日は暇だ。店長と話してもう少しシフトを増やそうか。部活に入らず、コンビニのアルバイトを週に二回ほどしているだけで平日は暇な日が多かった。
 というのも今の学校に入るとき、テストの点数はギリギリだった。試験の結果は合格だったが、おそらくかろうじてだったのは想像に容易い。
 だから最初は勉強漬けの毎日を想定していた。塾もこのまま通い続けようと思ったが、案外勉強にもついていけているし、成績は中の下ぐらいだが三年生になってからまた塾へでも通えばいいだろう。

 志望する大学なんてなかったし、ましてやどこの企業に行きたいとか将来の夢は特になかった。ただ楽しく暮らせればいいなと思うだけ。
 欲を言えば彼女が欲しかった。同級生たちの会話の中で色恋が出てくると彼らが大人びて見えた。

 けれど僕は付き合ってからどうすればいいのかわからなかった。セックスはしたいが、じゃあデートはどこへ行く? 連絡の頻度は? デートを重ねる回数は?
 そもそもの話、好きな人はいるの?

 好きな人? 僕は好きな人なんているのだろうか?
 愛佳? 仲のいい同級生。付き合ったら楽しそうではあるけど、そもそも向こうは僕に恋愛感情なんてあるのだろうか。

 美月? ただの幼馴染だ。掴みづらい彼女と付き合うもの好きなんているのだろうか。
 それともまだ見ぬこれから出会う人? どこで出会う? アルバイト先で?

 疑問ばかりが浮かんできて僕は考えるのを止めた。考えたところで彼女ができるわけでもないだろう。
 思考を停止させると眠気が襲ってきた。寝るのには中途半端な時間だが僕は目を閉じた。睡魔はすぐに僕の意識を覆った。


■筆者メッセージ
クリスマスもあっという間でしたな。
何もしてないけど。


ア〇〇スさん

やはり来てくれましたな。
色々あるんすよ。
またボチボチ読んでくさい。
( 2020/12/26(土) 13:10 )