04
ごみ捨てを終えると、美月に最近できたというクレープ屋に誘われた。てっきり労をねぎらって奢ってくれると思ってついてきたのに、割り勘だった。
「なんで割り勘なんだよ」
「いや、さすがに彼氏でもない男の人にね、奢ってもらうわけにはいかないでしょ」
「違うって。逆っていうか、ごみ捨て手伝ったんだから『ここは私が出すよ』ってなるはずでしょ」
「What?」
「無駄に発音のいい英語で返すな」
「うるさいわねえ。細かいことばかり言ってたらモテないわよ」
唇についたクリームをペロペロさせる美月にもう何を言っても無駄だと悟った。運が悪かったのだ。そう思うようにした。
「あっ、ここ潰れたんだ」
さっさとクレープを食べ切った僕は紙をゴミ箱へ捨てると、美月がそんなことを言い出した。
「え、どこ?」
「あそこ」
美月が指さしたのは精肉店だった。ただシャッターが下りており、貼り紙が張っていた。そこには閉店を知らせる内容が書かれている。
「昔行ったな」
「うん。ここのコロッケ美味しかったんだけどな」
「でももう何年も行ってない」
「私も。ここの商店街自体久しぶりかも。いつもスーパーだからさ」
同じだった。ただ唯一違うのが僕はスーパーすら行かないということだ。日用品は親が買ってくるし、自分で買う物なんてコンビニぐらいしか行かなかった。
久しぶりに来た商店街。ずいぶん前に来た時よりもシャッターを下ろしている店が多くなった気がする。
「全部スーパーに取られちゃったのかな」
「そうだろうな。ま、競争社会だから仕方がない」
新しい店に代わるでもなく、シャッターだけを下した店たちを通り過ぎると、商店街の外へ出た。
交通量が変わり、一気に自動車や自転車の数が増える。横断歩道の前へ止まると、僕はこの光景がどこか見覚えのある景色だと思った。
「どうしたの?」
いつの間にか信号が変わっていた。横断歩道を往来する人の中で美月は不思議そうな顔をしている。
「何でもない」
「どうせ可愛い子でもいたんでしょ」
「そういうわけじゃないって」
「あっ、修一がそう言うってのは図星の合図だ。みなさーん、特に若い女の子。ここに変態がいますよ。ご注意くださーい」
両手をメガホンのようにし、小声で周囲に向かって発信する美月を放っておくことにした。反論をいくらしてもキリがない。こういう時は無視が一番だ。
足早に横断歩道を抜けると、美月は僕よりも遅れて着いてきた。