06
部屋着に上着だけを羽織ってきた史帆は寒さを覚えた。空を見上げると澄み切った夜空に鋭利な刃物のように尖った月がポツンと浮かんでいた。
月が落ちてきて兄の頭に突き刺さればいいのに――ぼんやりとそんな考えが頭をよぎると、無意識に入れたポケットの中に何かが入っているのを感じた。
取り出してみるとカードだった。絵柄が描かれている。
「タロットカード、か」
これでも売って今夜の宿泊代にでもしろということか。はたしてこれがいくらで売れるか史帆にはわかりかねた。
と、史帆の記憶にあった点と点が結ばれた。確か電車で老人がくれたカードのはずだった。夢ではなかったのだ。
けれども、史帆はタロットカードで占いなどしたことがなかった。存在自体は知っていたし、雑誌でも読んだことはある。
ポケットからはカードが何枚も出てきた。一枚一枚絵柄を見ていくが、それがおおよそ何を示しているのかはなんとなくわかるのだが、果たしてそれをどうすれば未来が占えるというのだろう。
カードを見比べながら歩く史帆の視界に夜店が入った。こんなところに夜店? 史帆は訝しりながら近くまで寄ると、どうやら占いのようだった。
よく屋台で見かける簡易的な作りだった。セロハンテープで留められた日焼けをした紙には『あなたの未来占い〼』と手書きで書かれている。
「あの、ちょっといいですか」
今の史帆に怖いものなんてなかった。というよりも、恐怖心なんてまるでなかった。吸い寄せられるように正面へと向かった。
「はい。何を占いますか」
中はランタンだけが灯っていて薄暗かった。
「いや占いたいものはなくて、いやあるんですけど今回は違うんですけど」
何も考えていなかった史帆はしどろもどろになってしまった。
「おや、いいカードをお持ちですね」
そんな史帆を見かねた男――白髪の老人はかけていた老眼鏡をクイっと持ち上げた。
「見せてもらっていいかな」
「はいどうぞ」
史帆は持っていたカードを全て彼に渡した。史帆から受け取る老人の手はほぼ骨と皮のようにやせ細っている。力を入れれば女の史帆でも簡単に折れる気がした。
老人は指先を震わせながらカードを一枚一枚眺めていっては感嘆とも落胆とも受け取れる声を上げていった。
史帆は老人がカードを眺めている間、視線をあちこちに向けた。薄暗い中にあって、見えるのは寝袋のような物だけだった。ここで寝泊まりでもしているのだろうか。
適当な占いで生計を立てているホームレスか。史帆がそう思うと、ランタンの火が消えた。辺りはすぐに真っ暗になってしまった。