03
違和感を覚えた。さっきまで明るかったはずなのに、窓の向こうはすっかりと暗くなっていた。窓に映る自分はガラス越しでもやつれているのが分かった。
恐怖心はなかった。明日地球が滅びると言われても「そうですか」と返答するだろうし、むしろこんな世界滅んでしまえばいいとさえ思っている。
史帆の顔が強張る。そんな自分の顔が見ているのが辛くなってきた史帆は視線を落とした。
「お嬢さんはもし自分に特別な能力が備わったとしたら、どんな能力がほしいと思うかな?」
「特別な能力? すみませんが、私現実主義者なのでそういったことに興味がないんです」
男性に声をかけられたことはこれまで何度かあった。不快感こそ示すが反面、嬉しさもあった。自分の美貌が認められている気がした。
けれど、老人のような話しかけられ方は初めてだった。相手が老人だからか、史帆にとって恐怖心は薄く、いざとなったら逃げきれる自信もあった。
「嘘はいかんよ、嘘は。君は夢を見ている。そうだな。例えば自分の親兄弟が殺される、物騒な話だが消されることを夢見ているだろう」
この言葉で史帆の表情が変わった。初対面の人間にズバリと言い当てられ、史帆は動揺を隠せなかった。
「え、いや、なんでそんなことを知っているんですか」
「全部知ってるよ。君のことは。若いのに苦労をしてしまって。若いうちの苦労は買ってでもしろというが、あまりに無駄な苦労を君は背負いすぎている。かわいそうに」
老人の言葉は全てを包み込んでくれるようだった。嫌悪感も恐怖心もない。全てをやさしく包み込んでくれる大きくて柔らかな毛布のようだった。
史帆の目から自然と涙が流れ出てきた。あふれ出た雫は地面にポタポタと落ちて地面に歪な円を作った。
「だからせめて私にできることをしてあげようと思って」
そう言って老人が胸ポケットから取り出したのは数枚のカードだった。
先ほどまで真っ暗だった窓の向こう側はいつの間にか燃えるような空の色に変わっていた。