第二章
13
 会社から出ると、すぐにタクシーを拾った。待ち合わせがあるというのに会議がなかなか終わらなかったのだ。予定の時間よりも三十分以上押してしまったがために、タクシーを使わざるを得なくなってしまった。
 無駄な出費である。人の時間を何だと思っているのか。彼女との待ち合わせ時間が迫っていることで、雄二は焦りを覚えている。焦りは苛立ちへと変わるのにそう時間は要することはなかった。

 急ぎであることを伝えたためか、タクシーの運転手は渋滞中の車の中を縫うように進んでいる。が、渋滞であることに変わりはない。すぐに身動きが取れなくなってしまった。
 腕時計を何度も見ては舌打ちをした。通勤時もそうなのだが、どうしてこの国は帰宅時間まで同じにさせようとするのか。フレックス制を導入している企業はあるが、もっと増えるべきである。九時からの企業を何社まで、十時からの企業を何社まで、十一時からの企業を……そうやって最大数を設ければ朝の通勤ラッシュや帰宅ラッシュの緩和に繋がるではないか。

 前を向いていると苛立ちが募るばかりだと考えた雄二は目を閉じた。健康診断こそ引っかかってはいないが、年々血圧が上がっていた。年齢を考えれば当然のこととはいえ、気を付けなければならない。
 会社にも多くいるのだが、醜く腹の突き出た男にはなりたくなかった。頭皮は薄く、腹の突き出た中年になるぐらいなら死んだほうがましだ。

 別に健康志向ではなかった。ただ、醜い中年にはなりたくないだけだった。健康を害し、男性器が機能しなくなっては困るのだ。
 古い女とはさっさと縁を切って若い女との第二の人生がもう間もなく始まるはずなのだから。


( 2019/04/18(木) 22:41 )