12
口をつけた瞬間、雄二は
快哉を叫びそうになるのをグッと堪えた。自分はセーフだったとしても、どちらが外れを引いたのかまだ分からなかった。
だが、雄二の横にいるマスターが口元を抑えながらしゃがみこんだのを見て、彼が外れを引いたことはもはや明白だった。
「バカ野郎が……」
苦虫を噛み潰した雄二は吐き捨てるようにそう言うと、椅子へと崩れるように腰を落とした。
「相変わらずですね、マスター。その運のなさ。まあ、あれだけ美人な奥様を見つけたのです。運を全て使い切ってしまったといっても過言ではありませんね」
どこまでも男は飄々としていて、まるでこの状況を第三者のような立ち位置で見ているようだ。
これは果たして喜劇なのか。夢ならば早く醒めてくれ。雄二は頭を抱えると、そのままカウンターへと打ち付けたくなる衝動に駆られた。
「……で、俺をどうする気だ」
あれだけ腹の中で暴れていたテキーラが借りてきた猫のように大人しくなってしまっていた。雄二は男の顔も見ずに言った。
「そんな雄二さん。何も私はあなたを捕って食おうなんてつもりはありませんよ。私はただ楽しくお酒を酌み交わしたいのです」
男はそう言ってカウンターに手を伸ばし、ひょいっと茶色い瓶を持ち上げると雄二の横へ座った。
「ほら、飲みましょうよ。ここは私が持ちますから」
「お前なんなんだよ。なんで俺に付きまとう」
「縁、でしょうね」
「今は円高みたいですよ」
カウンター越しから呂律の回っていない声が聞こえた。
「マスター、その円とは違いますよ」
「わかってますよ、それぐらい。僕にはねぇ」
ただでさえ面倒な男に絡まれているというのに、この期に及んで酔っ払いまでいるとは。金を払ってでもこの場から逃げ出したいはずなのに、どこか諦めている自分がいることを雄二には悔しくてならなかった。
「乾杯しましょう」
「そうしまひょう! うひょう!」
コポコポと音が聞こえる。雄二はそれを横目で見ると、グラスを掴んで勢いよく中身を口の中へと注ぎ入れた。入りきらなかった酒が口元を汚し、喉を焦がすかのようなアルコールが腹の中に溜まるのを覚えた。