03
「タロットカードか、これ」
「その通り」
博は鼻を鳴らした。いくら高校中退の頭しかないとはいえ、男の意図が読めた。タロットカードに描かれた“月”と運である“ツキ”をかけたのだ。
ここまで引っ張っておいてオヤジギャグかよ。博の中で怒りよりも徒労感の方が強くなっていた。
「くだらねぇ」
「おや。君はこういうの、嫌いかね」
「ああ、大嫌いだね」
本来ならテーブルごと蹴飛ばすところだった。けれど今はそんな気力もなかった。
「まあまあ。前置きはさておき。加藤君、君は未来を知りたくはないか」
突然男から名前を呼ばれた博は目を見開いた。
「なんで俺の名前知ってるんだよ」
「加藤博、二十歳。家族構成は父と母と妹。職歴は鳶を半年。解体を三か月。コンビニを半年。昼頃勤めていたコンビニを解雇され、ニート。最終学歴は高校中退。趣味はパチンコと煙草。煙草が趣味に入るか不明だがね。いわゆる現代でいう『詰んだ』人間」
スラスラと滞りなく説明をされているのは博のことなのに、彼の方が自分よりも自分のことを知ってそうな気さえするほどまだ浅瀬しか触れられていない気がした。
「お前何者だ。役所の人間か」
「学生時代から素行が悪く、思春期を迎える頃には当たり前のように大人へ反発を繰り返す。義務教育というお情けで中学校は卒業できたが、高校では担任と揉めて三か月で退学。職安から鳶の仕事を紹介されるも、親方に歯向かって半年で解雇。解体も同様。性格はカッとなりやすく飽きっぽい」
「おい、人の話を聞け」
「消費者金融から借りている金は五十万。学歴もお情けの中卒で、実質小卒のようなもの。あるのは無駄に高いプライドと借金だけ」
「黙れ!」
テーブルを蹴飛ばしたが、まるでびくともしないどころか蹴った足が痛んだだけだった。男は冷淡な目で博を見ている。
「救えない男だ」
「悪かったな。だったら放っておいてくれよ。どうせ俺の人生だ。好きなようにさせろ」
痛む足をさするといくぶん頭に上っていた血が下がっていくようだった。
「君は未来を知りたくないか」
唐突に話が戻った。博は男の出方を窺うように、頭の中で必死にベストアンサーを探した。
「知りたくないか」
「……まあ、知りたくないといえば嘘になる、けど」
しかし博の頭では気の利いた切り返しも、男を唸らせる答えも出せなかった。かといって素直に答えるのも癪に障った。
そのせいで中途半端な答えになってしまった。最後の方に至っては消え入りそうな声だ。
「君に能力を授けよう。どんな“人間”の未来を占える能力だ」
「未来を占える?」
ねずみ講か? 心臓が早鐘を打ったかのように高鳴り始めてきた。まるでなかったはずの尿意が急に思い出されたかのように込み上げてくる。
「そう。ただ一つ条件があって――」