01
週末は握手会に加え、ライブなども精力的にこなしていく。毎日がめまぐるしく過ぎていく。そう。過ごしているというよりは、過ぎ去っていくと表現した方がピッタリなほどスケジュールは過密日程となっていた。
無論メンバーからも不満の声が次第に大きくなっている。体調不良で休養しているメンバーも出始めた。
薄暗い車内を見渡すと、どのメンバーも寝ていた。もはや見慣れた光景である。どのメンバーも疲弊しきっている。
何とかできないものだろうか。秋元先生に相談した方がいいのか、それとも他の方がいいのか。仕事があるだけありがたいと思えと叱責されるのが関の山なのかと逡巡してしまう。
バスが停車した。車内に明かりが灯ると、メンバーが次々と起き出した。どのメンバーも重そうな身体を引きずるようにしてバスから降りていく。
そんな中で唯一まだ車内に残っているメンバーがいた。スッポリと上着が被せられていて誰なのか分からない。
「着いたよ」
揺すってあげると上着の下から反応があった。
上着がゆっくりと下ろされる。寝ていたのはてちだった。目を閉じている彼女の頬に涙が伝った跡が見えた。
「てち、着いたよ」
もう一度揺すってあげると、ようやく彼女は目を開けた。虚ろな目には生気が感じられなかった。
「降りる」
ザラザラとした声でそう言うと、帰り支度を始めた。私は近くで見守ってあげると、運転手の方がやって来た。
「あとはお二人だけですね」
ふわっと加齢臭がした。
「すみません」
「いいですよ。だいぶお疲れのようですから」
彼からしてみたら私たちなど孫ぐらいの世代だろう。そう思っていると、支度を終えたてちが立ち上がった。
が、バランスを崩しかけ、慌てて私は手を伸ばした。
「大丈夫?」
「大丈夫。ちょっと立ちくらみがしただけ」
てちは私の手を退けると、フラフラとしながら降り口へと向かっていった。
「あの子、本当に大丈夫かい。働かせすぎなんじゃないか」
運転手の方の口調は運営する大人たちへの怒りが向けられているようだった。
何を言えばいいのか分からない私は頭だけ下げると急いでてちの後を追った。
「大丈夫? 一人で帰れる?」
外に他のメンバーの姿は無かった。みんなもう帰ってしまったようだ。
てちは風に負けてしまいそうなほどフラフラとした足取りだった。
「私の家へ行こう」
肩を担いであげると、驚くほど軽かった。顔色は生気をなくしたかのように青白くて、目は焦点が合っていないかのように揺らめいていた。