05
「言わないよぉ。私が口が堅いの知ってるでしょ」
「はいはい。毎日見てますよ。ほら言ったわよ。この話はおしまい」
よし。上手く誤魔化せた上、嘘はついていない。完璧だ。
無論私は満足したが、愛佳は唇を突き出し不服そうだ。
「誤魔化された」
「誤魔化してなんかいないって。もうこの話はおしまいだから」
「むー。じゃあさ、好きなビデオを一つ挙げてよ。それ、澤部っちにあげるから」
「いやだから、おしまいって言ったじゃん」
「最後。しかも澤部っちに贈る品のアドバイスをもらいたいだけだから」
諦めの悪い愛佳に辟易としながらも、私は思考を巡らせた。ここで下手なことを言ってしまえば、状況を更に悪くしてしまう。
「普通に制服ものでいいんじゃない? というか、澤部さんに贈るのに私の好きなものじゃダメでしょ」
「そんなことはないって。欅のキャプテンお勧めのAVですって言えば、澤部っち泣いて喜ぶと思うよ」
泣くはずがないし、きっとバカにしながらもそれを家に持って帰って奥さんやお子さんが寝静まった頃に見て自慰でもするだろうな。
そう想像すると笑いが込み上げてきた。
「ね、面白いでしょ」
愛佳は私が笑っている理由を勘違いしているようだったが、かえって好都合だった。
「私たちどんなグループだと思われるかな」
「変態」
私たちは声を上げて笑った。
「でも実際澤部っち、奥さんと家でどんなエッチしてるのかな」
目尻を拭いながら愛佳が言った。
「えー。そんなこと一度も考えたことないよ」
「奥さんを誘う時とかさ。『ねえねえ、しようよ』って言ったりするのかな」
想像するとコメディのようにしか思えず、また吹き出して笑った。
「止めて、お腹痛い」
「『今から夫婦の時間だぞ。今夜の相方は岩井じゃなくて君だ』みたいな」
「ムードの欠片もないって」
「澤部っちムード作るのとか無理そうだもん」
ここで隠しカメラがあったらとんでもないことだろう。私はついカメラを探した。
「どうしたの?」
「いや、隠しカメラとかないかなって。ドッキリだったらヤバイよ」
愛佳はゲラゲラと笑った。
「業界に染まり過ぎだって。ただ、ファンの人とかいたら聞き耳立ててそうだけど」
言われてハッとした。カメラだけでなく、店内にいる人たちを見渡す。
私たちのことを知っている人はいなさそうだ。ホッとして烏龍茶を一口飲んだ。
「いなさそう?」
「うん。大丈夫だと思う」
「疲れちゃうよね。こういう世界に身を置いているとはいえどさ」
愛佳の声はこれまでと違い、真剣みがあって、その中にも寂寥感のような感情が含まれていた。