09
シングルサイズのベッドには、いくら女性とはいえ二人横並びでは狭かった。こんなドラマや漫画でありがちな、カップルのような真似をする日が来るとは。
さすがに裸体では恥ずかしくて耐えられなかった私は、パジャマを着ることを切望した。ねるちゃんは私の想像とは違って、あっさりと了承してくれたのがせめてもの救いだった。
「でもいつから生えたの、それ」
歯磨きを済ませたねるちゃんの口からはほんの少しだけ歯磨き粉のにおいがした。
「つい最近、のようなこの間のような」
もはやこれがいつ生えたのか。私はスッポリと記憶を無くしている。
「何それ。他人事みたいに」
声を出して笑うねるちゃんに合わせるように、私もハハハと乾いた笑い声を上げた。
「ビックリしたよね、もちろん」
「そりゃあ、ね。だってまさか生えてるとは思わないし、しかも私のパンツ漁ってるなんて想像もつかないって」
「だからそれはごめん。これが生えてから、なんだかおかしいの。これに振り回されてるっていうか」
ねるちゃんと目が合った。黒目がサイドテーブルに置かれた照明の淡い光を受けて、光っているように見える。
「分かるよ。だってそれが男の人の性欲の源なんでしょ? それが生えたのなら、性欲に振り回されることになるよね」
どうしてこんなにも彼女は性に対してこんなにも寛容的なのだろう。やはり異性との経験があるのか。
果たして――それを訊いていいものか。グループにおける恋愛はご法度だが、加入前なら致し方がない部分があった。
「気になる? 私が経験あるかどうか」
ねるちゃんはそんな私の心を見透かしているのか、核心を突いて来た。私は怖くて、視線を逸らした。
「いや、その」
「安心して。加入前だから」
やっぱりあるのか。安堵とともに、まだ経験のない私には急にねるちゃんが大人びて思えた。
「そう、なんだ」
「相手はお兄ちゃん。好きだったんだ。昔から」
だが、尊敬を抱こうとした矢先、聞き捨てならない言葉が飛び出した。
「へ? お兄ちゃん?」
「そう。お兄ちゃん。私が世界で一番大好きな人」
あまりの出来事に私は返す言葉が見つからなかった。血の繋がった兄妹であるはずだ。その二人がまさか愛し合っていたなんて。
ドラマだ。ドロッドロの恋愛ドラマじゃないか。私は急に胸がときめいた。
「引いたよね。お兄ちゃんが世界で一番大好きなんて。しかも肉体関係まで持っちゃうなんてさ」
「そ、そんなことないよ。ドラマだよ。恋愛ドラマだよ。少女マンガ原作の恋愛ドラマだよ!」
ガバっと身体を起こすと、ねるちゃんの手を握った。柔らかくてスベスベで、いかにも女の子の手だ。
「私なんて、コレだよ、コレ! お互い秘密はあるけど、なんだかねるちゃんのおかげで乗り越えていけそうな気がしてきた」
仲間を見つけた。そうだ。私は仲間を見つけたのだ。
墓場まで持っていかなければならない秘密を持ち合った仲間――。