02
会いたくない相手ほど会ってしまうものだ。同じグループに所属している以上、それは避けて通れないはずなのに、どうにか私は彼女と極力会わないように努めていた。
にも関わらず、バッタリと廊下で会ってしまった時の気まずさといったら、筆舌に尽くしがたかった。
彼女――美波ちゃんは私を見るなり、逃げるようにして楽屋へと行ってしまった。みんながいるところへ駆け込んでいく姿を私はただ見送るしか出来ない。
謝罪をしたかった。謝っても許されないことぐらい分かっているが、このままイタズラに時間だけが過ぎ去りうやむやのまま終わるのも辛かった。
それなのに、彼女に会いたくない自分がいる。怖かった。軽蔑されていることは間違いないだろう。どんな罵声を浴びても受け入れる覚悟は出来ているはずなのに、いざ彼女を前にすると何も言えない自分が居るのだ。
時間だけが過ぎていく。思い出もろとも全部を流してしまうように。楽しかった思い出たちだけが取り残され、辛い出来事や悲しい出来事だけを流してしまえれば、どれだけ幸せか。
そう願ってしまう自分は、なんと自分勝手な女なのだろう。ご都合主義もいいところだ。自嘲しながら日々を過ごしていると、いつしか罪悪感が薄れていくのが分かった。
「なんだか最近顔色がずいぶんと良くなってきたね」
化粧台に座って、メイクを手直ししているとふと横から声をかけられた。隣を見ると、マスカラを片手に微笑む長濱ねるちゃんがいた。
「そうかな」
鏡を見るといつもと変わらない自分が映っている。
「ちょっと前までは死にそうな顔をしていたよ。キャプテンっていう重圧に押し潰されそうだったのかもしれないね」
もちろんそれもあるが、それ以上のことがガツンと襲ってきたなどとは口が裂けても言えなかった。
「かもしれないなぁ」
問題はまるで解決をしていなかった。糸口すらも見つからないが、もはや“アレ”は私の身体の一部だと思うようにしている。そうすればこれ以上傷つかなくて済むのだ。
時の流れというのは残酷で。違和感をも薄れさせる。もちろん罪悪感も。最初は躊躇っていた『ぺーちゃんねる』での自慰も、もはや日常の中にすっかりと定着をしている。
「もしかしたら次の写真集、ゆっかーかもしれないし、顔色はいつでも良くしておかないとね」
写真集? そういえば、最近では私たちのグループにも写真集ラッシュが訪れていた。
「私なんて絶対ないわよ」
笑いながらも、もしオファーがあったらどうしようかという考えが一瞬頭をよぎった。が、すぐに無理だと結論付けた。こんな身体で水着姿になるなんて無謀にも程がある。
「えー。そんなことないよ。私だって写真集になったんだから、次は絶対ゆっかーだって」
ねるちゃんの写真集か。まだ購入していなかったが、『ぺーちゃんねる』にもそろそろ飽き始めてきた頃だ。いい機会かもしれない。
男性器がゆっくりと膨張するのが分かった。