01
ついにメンバーに秘密がバレてしまった。しかもよりにもよって長沢君とは。私は自分の運の無さを改めて恨んだ。
口は堅いとは思うが、いかんせん天然な子だ。ついポロリと言ってしまいそうで怖い。私は頭を抱えた。
口封じのために殺すか。
殺意すら湧いて出てくる自分にも驚くことも無ければ、失望することも無い。それほどまでに私は困窮しているのだ。
どうすれば私が犯人だとバレないように殺せるのかと思案していると、鼻歌が聞こえた。誰だ。私がこんなにも困窮しているというのに、呑気に鼻歌など歌う輩は。
辺りを見渡すと、小池美波ちゃんのようだった。彼女は私のことなど知ったこっちゃないといわんばかりに、上機嫌に鼻歌を歌っている。
クソが。普段なら気にも留めない行為に私はイライラとした気持ちが更に増幅された。が、次第にリラックスしていることに気が付いた。
彼女特有のアニメ声に癒されているのか。まるで森林浴や音楽を聴いたかのようなα波に、ささくれ立つ私の心は満たされていく。
「あっ……」
鼻歌が止んだ。テレビを観ていて、いいところで突然チャンネルを変えられたようだ。
「ん?」
「ああ、いや。もっと鼻歌聞きたいなって思って」
乱れた髪を直しながら、辛うじて笑みを作ると美波ちゃんは歯を覗かせた。
「ここから先は有料でーす」
「有料? 鼻歌で?」
ようやくざわめきが治まりかけていたというのに。私はバッグから財布を取り出そうとすると、ケラケラと笑い声が聞こえた。
「冗談やって。もう、本気にするなんて思わへんかったよ」
今はこの荒くれた心が穏やかになるのなら、多少の出費ぐらい平気だった。まるで薬を欲しがる薬物患者のようだが、事態が事態なのだ。致し方がないだろう。
「早く歌ってよ」
禁断症状が出始める寸前のようだ。とはいっても、私にとっての禁断症状とは男性器の勃起に他ならないが……。
「何の曲がいい?」
「癒される曲なら何でも」
「えー。むずいなぁ」
「いいから、早く早く」
「もう。そんな急かさへんとって」
考え込む時間すら惜しかった。早くしてくれなければ、どうにかなってしまいそうだ。
催促をするように私が足踏みをすると、ようやく歌い始めてくれた。
ああ、これだ。曲名こそ分からないが、そんなことはどうでもよかった。α波が再び脳にいい影響をもたらしてくれる。
「もっと耳元で歌って」
「今日のゆっかー、なんか変態ちっくやね」
「変態でも何でもいいから。お願い」
私は『変態』なのではない。ただ、『変体』になってしまっているだけだ。
それを口に出すことはせずにいると、近くに寄って来てくれたようで、音が更に近く聞こえた。私は目を閉じながら机に突っ伏した。
長沢君にバレてしまって以降、満足に寝付けない日々が続いた。寝不足もあってか、私の意識はすぐに暗闇へと溶けていった。