第2章「私、見ちゃったんです」
04
 しゃがみこんだ長沢君の視線はちょうど私の股間部分とほぼ同じ高さになっている。まさかあなたの放尿姿を見て勃起しましたなんて言えるわけがない。
 しかしかといって適切な嘘が見当たらない。私たちの間で無言という重みがのしかかった。

「……分かったかも」

 無言に押し潰されそうになる中、長沢君が口を開いた。私は思わず悲鳴を上げそうになった。ついに男性器が生えたことがメンバーにバレてしまう日が来たのだ。
 私は一体どうなるのだろう。これまでの人生が走馬灯のように流れる。楽しいことよりも辛いことの方が多かった気がするけど、トータルで見た時にやっぱり楽しかったといえる人生がいいななんて、欅坂に入ったばかりの時、土生ちゃんと話したっけ。

「ゆっかー盗撮してるんでしょ? 私の飲み物に利尿剤混ぜて。私がおしっこへ行きたくなるようにして、小屋に蜂の巣を作って、外でするところを盗撮してたんでしょ」

 長沢君の推理はあまりに斜め上へ行き過ぎていた。思わず私は素っ頓狂な声を上げた。

「へ? 盗撮?」

「そうよ。盗撮してメンバーに言い触らすんでしょ。私が外でおしっこしてたって」

 下半身を露出させたまま、長沢君が立ち上がった。おしっこをしてから拭いていないから、水滴が太ももを伝っている。気持ち悪くないのだろうか。

「いやいや。そんなわけないでしょ」

「じゃあこの膨らみは何?」

“むんず”と勃起した男性器を握られ、私は悲鳴にも嬌声とも似た声を上げてしまった。

「やだ。なんて声出してるの。固いし、絶対カメラでしょ」

 長沢君の手が揉みしだくように男性器を強引に愛撫する。男性器が見る見るうちに刺激を受け、快楽を呼び起こす。

「ダメ……触らないでぇ」

 ジャージ越しとはいえ、人に触られるのなんて初めてだったから、すぐに気持ちがよくなってしまった。

「でも、なんかカメラっぽくないような。ねぇ、見るよ」

「だ、ダメ! それだけは止めて! お願いだから」

「やだ。見るの」

 相撲のような体勢になった私たちはバランスを崩し、私は背中から地面へと転がった。その拍子で、ついに私の秘密が公に晒されてしまった。

「え? これって……」

 ついに見られてしまった。墓場まで持っていこうと思っていたのに。
 けれど、思えばそんなこと無理に決まっていたのだ。さっさと辞めてしまえばよかった。せっかくアイドルになれたけれど、こんなモノが生えてしまったらアイドルなんて続けられるはずがないのに。

 私の目から大粒の涙がこぼれる。現実を受け止め切れなくて、何も見たくなかった。手で顔を覆い隠し、私はおいおい泣いた。

「どういうこと? え、どういうことなの?」

 混乱する長沢君の声すら聞きたくなかった。
 けれど、耳を塞ぎたくても顔を覆うことしか出来ないのが、更に悲しかった。

( 2018/04/25(水) 18:44 )