第2章「私、見ちゃったんです」
03
 熊よりも厄介だったのが、蜂だった。ブンブン飛び回る蜂は小屋のようなトイレに巣を作っていた。あんなところに巣を作られてはトイレに行けないではないか。
 蜂の件はあとでスタッフさんに報告をするとして、問題なのはトイレだ。私は別に尿意を覚えていないが、長沢君はずいぶんと前から我慢をしていたようで、足をモジモジさせ始めていた。

「近くの茂みでするしかないみたい」

 下山をしてトイレに行くまでの余裕はないだろう。そう踏んだ私に長沢君はコクコクと頷いた。どうやら私の考えは的中したようだ。

「見張っててあげるからすぐにしてきなよ」

 これじゃあ私が長沢君の彼氏じゃないか。男性器も生えてるし。

「虫とかいないかな」

 山の中なんだからむしろ人よりもいるだろう。しかもあなたは田舎生まれじゃないか。虫なんて見慣れているだろうが。いざとなればおしっこで洗い流してやればいい。
 自虐的にも、攻撃的にも似た感情がグルグルと渦巻いている。ダメだ。このまま振り回されていてはダメだ。

「私見てくるよ」

 無理やり作った笑顔でそう言うと、私は歩き始めた。慌てて長沢君も付いて来る。

「ここら辺なんていいんじゃない?」

 少し歩くと、雑草が少ないところがあった。虫の姿も見えない。

「ダメ! 我慢出来ない!」

 いきなり発せられた大声に驚くと、隣にいた長沢君の頭が消えた。下を向くと、ジャージを下ろした彼女から尿が迸る音が聞こえた。
 目の前で女の子が放尿をしている。いつか隣で聞いた小池美波ちゃんのシーンがフラッシュバックした。あの時よりも今は距離が近くて、我慢していただけあって音も凄かった。
 視線を外さなきゃ。そう思っているのに、身体が動かない。視線がガッチリとホールドされてしまったようだ。

 長沢君も何も言わないでおしっこを出し続ける。女同士だからか、我慢していたものを出すのに精一杯だからなのか。迸る音は虫や鳥の鳴き声よりも大きく聞こえた。
 やがて小さくなると、長沢君の口から息が漏れ出た。

「ふう。ギリギリセーフ」

 セーフなのか? メンバーにおしっこをしている姿を見せて。まあ、漏らすよりもいいのか。

「ん? ゆっかー、なんか股の所隠してる?」

 しゃがむ長沢君の視線は、ちょうど私の股間ぐらいだった。指摘され、私は慌てて視線を落とすと、ジャージのズボンがテントを張っていた。

「げっ!」

 アイドルどころか、女性らしからぬ声が出たが、今はそれどころじゃない。冬眠をしていた“奴”が目を覚ましてしまったのだ。

「なんでモッコリしてるの?」

( 2018/04/25(水) 18:44 )