03
熊よりも厄介だったのが、蜂だった。ブンブン飛び回る蜂は小屋のようなトイレに巣を作っていた。あんなところに巣を作られてはトイレに行けないではないか。
蜂の件はあとでスタッフさんに報告をするとして、問題なのはトイレだ。私は別に尿意を覚えていないが、長沢君はずいぶんと前から我慢をしていたようで、足をモジモジさせ始めていた。
「近くの茂みでするしかないみたい」
下山をしてトイレに行くまでの余裕はないだろう。そう踏んだ私に長沢君はコクコクと頷いた。どうやら私の考えは的中したようだ。
「見張っててあげるからすぐにしてきなよ」
これじゃあ私が長沢君の彼氏じゃないか。男性器も生えてるし。
「虫とかいないかな」
山の中なんだからむしろ人よりもいるだろう。しかもあなたは田舎生まれじゃないか。虫なんて見慣れているだろうが。いざとなればおしっこで洗い流してやればいい。
自虐的にも、攻撃的にも似た感情がグルグルと渦巻いている。ダメだ。このまま振り回されていてはダメだ。
「私見てくるよ」
無理やり作った笑顔でそう言うと、私は歩き始めた。慌てて長沢君も付いて来る。
「ここら辺なんていいんじゃない?」
少し歩くと、雑草が少ないところがあった。虫の姿も見えない。
「ダメ! 我慢出来ない!」
いきなり発せられた大声に驚くと、隣にいた長沢君の頭が消えた。下を向くと、ジャージを下ろした彼女から尿が迸る音が聞こえた。
目の前で女の子が放尿をしている。いつか隣で聞いた小池美波ちゃんのシーンがフラッシュバックした。あの時よりも今は距離が近くて、我慢していただけあって音も凄かった。
視線を外さなきゃ。そう思っているのに、身体が動かない。視線がガッチリとホールドされてしまったようだ。
長沢君も何も言わないでおしっこを出し続ける。女同士だからか、我慢していたものを出すのに精一杯だからなのか。迸る音は虫や鳥の鳴き声よりも大きく聞こえた。
やがて小さくなると、長沢君の口から息が漏れ出た。
「ふう。ギリギリセーフ」
セーフなのか? メンバーにおしっこをしている姿を見せて。まあ、漏らすよりもいいのか。
「ん? ゆっかー、なんか股の所隠してる?」
しゃがむ長沢君の視線は、ちょうど私の股間ぐらいだった。指摘され、私は慌てて視線を落とすと、ジャージのズボンがテントを張っていた。
「げっ!」
アイドルどころか、女性らしからぬ声が出たが、今はそれどころじゃない。冬眠をしていた“奴”が目を覚ましてしまったのだ。
「なんでモッコリしてるの?」