第1章「ペーチャンネル」
06
 欲望を具現化させたともいえる液体をティッシュに吐き出すと、罪悪感とほどよい快楽、そして射精後のだるさを覚えた。
 もうこのまま半分女性、半分男性として生きていくしかないのか。そう思った矢先、隣の個室に人が入る音が聞こえた。

「なんか臭くない?」

 舌足らずな声で分かった。小池美波ちゃんだ。まさか隣の個室に入っている人間が射精したなんて思ってもいないだろう。
 そもそも射精時の臭いというのはそう気が付くものなのだろうか。すっかりと半分男性化した私はもはやこの臭いに慣れてしまっているため、分からなくなっているのかもしれない。

 すまないと心の中で謝罪すると、衣擦れの音が聞こえた。便座に腰掛けると、シャーッと音が聞こえ始めた。
 どうやらおしっこだから音姫機能や水を流して音を消すことはしないようだ。ダイレクトに放尿している音を聞いていると、射精後だった男性器が一気に硬直したと同時に、私はとんでもないことを思いついてしまった。

「ふぅ……気持ちよかった」

 我慢していたのか、おしっこには勢いがあって長かった。私の手はごく当たり前のように男性器に添えられており、当然のようにしごき始めていた。
 出し終えようと、お腹に力を入れたのだろう。「ぷう」と漫画チックで、可愛らしい放屁音が鳴った。慌ててトイレットペーパーを捲くる音がした。

 水洗レバーを押した音の後に水が流れ出た。隣の個室から美波ちゃんが出て行く。ごめんよ。オカズにさせてもらっちゃって。
 欅坂のメンバーで梨加ちゃん以外をオカズにしたことはまだなかった。しかし考えてみれば、彼女以外にもたくさんメンバーがいるのだ。
 そんなことを考えつつも、頭の中は美波ちゃんのことで一杯だった。可愛らしい声。放屁をしてしまって、恥ずかしがって慌ててトイレットペーパーを捲くった姿を想像すると、やがて射精感が押し寄せてきた。

 この短い間で二度も射精するのは初めてのことだ。それにも関わらず、一度目と変わらない量の液体が出た。
 ぐったりとしていると、携帯電話が鳴った。マネージャーからだ。そうだ。冠番組の収録を控えている。時間は十二分にあったはずなのに、気が付けばそれが迫っていた。
 私は慌てて後始末を終えると、イカ臭いかどうか確認をしようとしたが鼻が慣れすぎているのかまるで分からない。

 試しに個室から出たが、やっぱり分からなかった。まあ、換気扇も回っているし、そのうちに消えていることだろう。
 鏡の前に立つ。衣装が乱れていないか、ましてや自分で出したものがかかっていないか確認をする。うん。大丈夫だ。
 心なしか、悪巧みを考え付いたような顔つきにも見えなくもないが、私は目を背けるようにしてトイレを後にした。

( 2018/04/25(水) 18:41 )