第1章「ペーチャンネル」
01
 おそらく欅坂に入って最低のコンディションでの写真撮影だ。睡眠不足の肌をごまかすために、写真を加工するのは大変だろうなと思いつつ私は控え室へと戻った。
 雑誌の取材の為に訪れたスタジオ。廊下を歩く足取りは重たかった。連日の寝不足だ。仕事が多忙というわけではない。股間に生えてしまった異物のせいだ。私はそれが生えて以降、どうすればいいのかと悩み続けている。

 おかげで寝不足の日々が続いた。眠気はある。しかし熟睡できないのだ。体力が奪われていっているのは、寝不足を引き起こしている“奴”のせいに違いなかった。
 私の股間に生えたのはどう見ても男性器だった。子供の頃に見た父親のそれと同じだった。なんでそれが女である私に生える?
 世の中には数万人に一人の難病を抱える人たちがいる。けれども、私のように突然男性器が生えてきた人間は果たしているのだろうか。なまじ病院にでも相談すれば大騒ぎになりかねない。

「欅坂46キャプテン菅井まさかの男性器が生えちゃった!」

 情報は瞬く間に広がることだろう。突然変異とはいえ、親になんて言えばいい?

「ごめんお父さん、お母さん。生えちゃった」

 娘の告白を聞いた親は何を思うだろう。子供が出来たのと同じか、それ以上驚くだろうか。出来ちゃった結婚の方がまだよかったと嘆くだろうか。
 グルグルと思考は回転をしているはずなのに、まるで解決策が見当たらない。堂々と生える男性器に私はトイレで用を足す時も、お風呂に入る時もじっくりと自分の身体を見ることが出来なくなっていた。

「どうすればいいのよ……」

 もはや口癖となったその言葉。ぼやきながら控え室の扉を開けると、ソファーに横になって寝ている人がいた。
 誰だろうと思って顔を覗くと、渡辺梨加だった。そういえば、同じ出版社から発刊されている雑誌のグラビア撮影があると聞いていた。

「いいなぁ。呑気に昼寝なんかしちゃって」

 自前なのか借りてきたのか、毛布をかけて寝る梨加ちゃんを見ながら私は嫉妬した。こっちは大問題を抱えているというのに。
 ジンベイザメのぬいぐるみ『アオコ』を抱きながら、梨加ちゃんの寝顔はとても安らいでいて可愛らしかった。私はバッグから携帯電話を取り出すと、何枚か写真を撮った。
 梨加ちゃんの眠りは深いのか、シャッター音が鳴っても起きる気配はない。

 わずかに開いた口から漏れる寝息。普段はキュッと結んでいることが多い唇がだらしなく開いているのを見ていると、股間の部分に異変が起き始めた。
 これは朝の現象と同じだ。私は男性器に蓋をするように手で押さえつけた。が、意思とは反対に男性器はみるみる大きくなっていく。

( 2018/04/25(水) 18:39 )