01
新しい同居人との生活が始まった。椿家にやって来た新しい玩具――美久は十四歳にして、早くもメイドとしての
片鱗を見せている。
麻衣には美久の熟練とした動きが信じられなかった。自分が売られたのは十五歳の頃。それよりも一歳若くして売られたのにも関わらず、美久の動きはもう何年も仕えているようであった。
この子は普通の子じゃない――初めて会った瞬間を、麻衣ははっきりと覚えている。透き通るような肌。大きな目。お人形と呼ぶに相応しい少女が恭一郎の横に立っていた。
その顔を見た瞬間、麻衣の前身の毛はブワリと逆立った。もちろん、可愛さもあった。聖菜とも渚沙とも違う美少女は、本当の人形のようだった。
けれど、嫌な感じがしてならなかった。怖かった。そう。麻衣は美久を見た瞬間、恐怖心を覚えたのだ。あれは生理的な嫌悪感からくるものではない。確かにあの時、麻衣は怖いと感じた。
「電話で話した美久だ」
「初めまして。美久と申します」
恭一郎に紹介され、ペコリと頭を下げた美久を見ると、麻衣も慌てて自己紹介をした。
「ご主人様から伺っています。どんな方なのだろうと思っていましたけど、綺麗で優しそうな方でよかったです」
顔に似合わず、言葉遣いは子供子供していなかった。
「分からないことは全部麻衣に訊くといい」
「はい。お姉さま、ご主人様。
不束者ですが、どうぞよろしくお願いします」
◇
レストランから帰宅後、珍しく恭一郎は「寝る」と言って、風呂に入ったかと思えばすぐに寝てしまった。レストランで恭一郎はワインを飲みすぎていた。生理以外で抱かれないのは久しぶりのことで、本来なら麻衣は手放しで喜ぶものだった。
が、新しい同居人の存在がそれを邪魔した。
「お姉さま。もしよろしければ、お風呂に一緒に入ってくれませんか」
翌朝の朝食の下準備が終わり、風呂へ入ろうとした時のことだ。麻衣は誘われた。
「一緒に?」
「はい。美久は一人ではまだ入れないのです」
麻衣が美久と同じ十四歳の頃には、とっくに一人で入浴も就寝もしていた。渚沙もそうだが、中には一人で何も出来ない子がいるようだ。
「まあ、いいけど」
恐怖心は麻衣の
胸奥に鉛のように沈殿しているが、風呂へ入るぐらいならいいだろうと承諾した。
「ありがとうございます。やっぱりお優しいお姉さまでよかった」
そんなはずがないわよ――そう言おうとしたが、美久の屈託のない笑顔を見ていると、毒を抜かれたように言葉が出てこなかった。