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高層ホテルの最上階にあるレストランの窓から一望する夜景に、美久は感嘆の声を漏らした。摩天楼を見渡す窓際の席に三人が座ると、美久はしきりに窓ばかりを見ている。
「すごいです。綺麗」
葬式のように真っ黒なワンピースを身に纏った美久は、やはり十四歳の少女であった。大きな瞳を輝かせながら、眼下に広がる摩天楼を眺めている。
「昼間は小汚ねえ
煤けた街だけど、夜は表情を変えるよな」
そんな美久を微笑ましい気持ちで恭一郎は見守っている。
この街は自分とよく似ていると思う。朝の顔と夜の顔。表の顔と裏の顔。二面性を持った街は、恭一郎自身と酷似している気がしてならない。
「これが夜景なんですね」
美久の世界観はあまりに狭量だった。君のいる世界はもっと広いんだぜ――恭一郎はワインを飲むと、美久の隣に座る麻衣のことを伺い見た。
赤いワンピースを身に纏った彼女は、夜景にも美久にも興味なさげに俯いたままだった。自宅まで帰って来た際、美久のことを紹介した。彼女は一瞬目を大きく見開いたが、すぐに新しい同居人を迎えた。
いや、迎えることしか出来ないのだ。彼女に拒否権はない。例え、また幼い少女であったとしても、だ――。
「お姉さまは見ないんですか? あっ、もしかして高所恐怖症だったり」
美久は麻衣のことをお姉さまと呼んだ。美久は知っていたのだ。自分よりも先輩のメイドが仕えていることを。
「そういうわけじゃないけど」
ようやく顔を上げた麻衣の表情は、どこか虚ろだった。生気をなくしたような顔で美久のことを見ている。
「でも、美久よりお姉さまの方が夜景は似合っていますよね」
「そんなことはないぜ。美久だって十分似合っているよ」
曖昧に笑う麻衣の代わりに、恭一郎が答えてやると、美久は照れくさそうに笑った。
「本当ですか。ご主人様に言われると、お世辞でも嬉しいなあ」
「お世辞じゃないよ。なあ、麻衣」
「はい。そうですね。うん。美久ちゃんも似合っているわよ」
さすがに恭一郎の言葉には返答せざるを得ない麻衣は、ぎこちない笑みを作りながら答えた。
「お姉さまにまで言っていただけるなんて、美久本当にご主人様に買われてよかった」
雰囲気だけは二人と合わせたいと頼んだグレープジュースの入ったグラスを両手で掴みながら、美久は嬉しそうに言った。麻衣とは違って、本心から出た言葉のように恭一郎には聞こえた。
そりゃあ、そうか。施設の貧乏飯を食っていた人間が、一食数万以上はする高級コース料理を食べているのだから。新しくて綺麗な洋服も買ってくれたし、住む家も豪華だ。これ以上ない待遇で美久は出迎えられているのだ。
まだまだ発展途上の美久の身体と、成熟した麻衣の身体。二人合わせて体を重ね合うのも悪くないな。
恭一郎は
邪な笑みを見せると、早くも股間に血液が集まり始めていることに気が付いた。