04
話を聞けば、『MIKU』は施設で育ったらしい。その施設は表向きでは児童保護施設なのだが、裏では人身売買で生計を立てているようなところだった。
要は親に売られたのか。恭一郎は『MIKU』のことをさりげなく見ると、彼女は目ざとく恭一郎の視線を感じ取り、口角を綺麗に上げた。これが十四歳の子供の見せる顔立ちか。
「施設でも『MIKU』は人気でした。いつ出荷をするか。旬な食材があるように、人もまた旬な時期がございます。彼女の場合、早熟な食材ですので、いつもご贔屓にしてくださる椿様にぜひ紹介したく、今回はこちらでいかがでしょうか」
「そいつは嬉しいねえ。だけど他の奴が嫉妬しないか」
「ここだけの話にしておけば問題ありません。おまけに、『MIKU』はすでに施設にておおよそのことは教育していますので、すぐにお楽しみいただけますよ」
「処女じゃないのか」
夢宮はかぶりを振った。
「もちろん処女です。あくまで、メイドとしての教育ですよ」
そういうことか。言動を見るに、確かに教育は十分受けてきたようだ。
ヒシヒシと感じる視線。夢宮の隣に座る少女から受ける視線を恭一郎はずっと感じ続けている。
「『MIKU』は俺でいいのかい」
もちろん、もう腹は決まっていた。多少値段が張ろうとも、この少女を買う気でいた。が、恭一郎はなぜか彼女に尋ねたくなった。どんな答えであったとしても、自分の考えを改める気はないというのに。
「はい。『MIKU』の初めてのご主人様になってください」
マニュアル通りのようだが、明らかに“生きた声”だった。麻衣のように、言わされたような声じゃない。この少女は心から自分の買われることを望んでいるのだ。
「分かった。じゃあ、よろしくな」
右手を差し出すと、小さな手がその手を握った。
「ありがとうございます。では、こちらが取扱説明書になります。あとはいつも通りで結構ですので」
夢宮から受け取った説明書をパラパラと捲る。身長や体重、血液型などのプロフィールはいいとして、問題なのは値段である。
「ん? ゼロが一つ少なくないか」
最後のページに一枚の用紙が挟まっていた。請求予定額が書かれた紙であった。値段を見るに、恭一郎が予想していた額よりもはるかに少なかった。
「いえ、その額で合っています。ちょっと特殊な子でしてね。それに関しては説明書に記載をされています。日常生活にはさほど支障がないかと思いますが、万が一返品をされるようでしたら構いませんので」
なるほど。それでこの値段か。
容姿は問題ない。むしろ上物といっていいだろう。しかし、問題ありか。
「分かった」
それでも日常生活に支障をきたさなければいいだろう。恭一郎は説明書を閉じると、立ち上がった。『MIKU』もそれに倣うようにパッと立ち上がると、テーブルを回って、恭一郎の腕を取った。