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金に不自由していないから、いくらでも女は抱けた。しかし、恭一郎の砂漠のように渇き果てた心は一向に満たされることはなかった。
何かが足りなかった。恭一郎には、それが何なのか分からなかった。朝霧の中を
彷徨うような日々が何日も続いたある日のことだ。その男は突如として恭一郎の前に現れた。
「失礼ですが、椿様ですよね」
風俗店を後にした時のことだ。一瞬、週刊誌の人間かと思ったが、いくら上場企業とはいえ一介の民間人をスクープするとは考えられなかった。
恭一郎は返事をしなかった。怪訝な顔をしたまま男を見つめた。
「私、こういう者です」
スッと差し出された名刺を奪うように取ると、名刺には男の名前と電話番号だけが書かれていた。裏を見ると、『あなたの夢を叶えます』と書かれていた。
「悪いが俺は芸能界に興味なんてない」
スカウトの類だと判断した恭一郎は、名刺をつき返そうとしたが、男は手を出してこなかった。
「芸能界へのスカウトではありません。私は人身売買を専門に扱う人間でしてね」
「人身売買?」
つき返そうとしている恭一郎の手が引っ込むと、もう一度名刺を見た。男の名前は夢宮とだけ書かれていた。
「そうです。椿様のやられている仕事とさして変わりません。自動車が人間の女になっただけです」
「つまり、売春と」
犯罪の香りがする。ただでさえ、つい先日紗矢をレイプまがいのことをしたばかりである。そのことが、恭一郎の頭の中にはあった。
「またちょっと違います。あちらはお金を渡して一時的に買いますが、こちらは半永久的、つまりご購入者様が飽きない、または購入した商品が死ぬまでご使用いただけます。いわば、物なのです」
「物……」
「ええ。気に入りましたらずっとご使用していただけますし、気に入らなければリリースされても構いません。それか、捨ててしまっても」
最後の部分だけ、夢宮という男は低い声で言った。あくまで自己責任なのだろうが、それはつまり殺してしまってもいいということか。
「胡散臭いな」
「ええ。いきなり信じろと言われても無理なお話でしょうが、これは本当なのです。どうでしょう。一度ご購入してみては」
「結構。俺は女に飢えていないんでな。そういうことなら、もっと不細工な奴にでも当たることだ」
恭一郎はそう言って立ち去ろうとした時だ。背後から声が聞こえた。
「あなたは今の“性活”に満足されてません。私には分かります。私のところには、あなたが気に入る商品が必ずございます。満たされぬグラスを満たしてみたいと思いませんか」
ハッとしたように恭一郎は振り返る。
夢宮は満足そうに頷いた。