10
オイオイと咽び泣く紗矢を横目に、恭一郎はさっさとベッドの中に潜り込んだ。セックスの後で疲労感が押し寄せていた。
「ねえ、恭一郎さん……」
小さな子供が親に欲しい物をねだるような声だった。
「うるさい。そんなに金が欲しけりゃ風俗にでも行けばいいだろ。それとも何か。俺との関係は金でしか繋がってないっていうのか。お前、俺と初めて会った時に言ったよな? 『赤い糸で繋がっている』って。赤い糸じゃなくて、金の糸で繋がってるのか」
「違う。そういう意味じゃないの。お願い、分かってよ」
元から面倒な女だったが、それ以上に面倒な女に成り下がったものだ。身体を揺すられながら、恭一郎は眠りを妨げる紗矢を睨んだ。
「恭一郎さん……」
「うるせえ奴だな、お前は。そもそも百姓の娘が一流自動車メーカーの社長を親父に持つ俺と付き合っていたことに感謝しろよ。田舎臭いお前を相手してやってたのは、あくまで契約のためだって言っただろ。もう俺たちの関係は終わったんだ。契約切れなんだよ。分かったらさっさと出て行け」
赤く充血した目が、大きく見開かれ、また大粒の涙を流した。またコイツは泣くのか。
女というのは楽な生き様だ。何かあれば泣いて男を頼っておけばいいと思っている。
だけどそれは違うんだよ。他の男はそうかもしれないが、例外なんていくらでもある。通用しなくて憤りたければ、一生憤っていればいい。それがバカな女にはお似合いの人生だ。
シクシクと泣き続ける紗矢を尻目に、恭一郎は寝ることにした。起きればこの女はおなくなっているだろう。
喉に異変を感じたのは、恭一郎が浅い眠りにつこうとしている頃だった。最初は夢かと思っていた。誰かに首を絞められる夢なんて物騒な夢だ。
だが、夢にはない“痛み”を感じた。喉仏に親指が添えられ、ゆっくりと圧迫されていく中で、恭一郎はパッと目を覚ました。
「殺してやる」
目の前にいたのは鬼の形相をした紗矢だった。芋くさい顔は、怒りで歪んでいた。
「かっ……かあっ……」
恭一郎は自分の首を絞める紗矢の手を掴み、引き剥がそうとした。
「殺してやる!」
恭一郎が起きてしまったことに焦った紗矢は、力いっぱい首を締め付けようとした。が、所詮は女の力だった。重量物など持ったことのないであろう非力な腕では、男の恭一郎の力には勝てるはずがなかった。
引き剥がされる紗矢の手。恭一郎は腹筋を使って、上半身を起こすと、紗矢を床へと落とした。
「愛した男を殺そうとするとは。恐ろしい女だぜ」
床に倒れる紗矢の腹部をサッカーボールを蹴るかのように蹴飛ばすと、苦痛に歪む紗矢の髪の毛を掴んだ。
「こりゃあ、調教が必要だな」
どうせ社会から見放された女だ。鬼の形相から一変、恐怖に引きつる紗矢の顔を見ているだけで、恭一郎は背筋がゾクゾクするのを感じた。