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そうなると、自ずとドイツへの参入が望まれる。世界でも有数の自動車シェアを誇る国。ただ、ドイツは恭一郎にとって最終目標だった。
そう。ドイツさえ攻略出来たのならば、世界一の称号を名乗っていいと言えるだろう。ヨーロッパを制することがひいては世界を獲るということに繋がる。
その点からしてみると、ドイツへの参入はまだまだ早計過ぎた。力不足の感が否めないし、まず社長である総一郎ではダメだ。
守ることしか能のない無能な社長。所詮繋ぎの男に世界と戦うなんてものは無茶な話だ。ただ、今奴に隠居されては困るのも事実だった。まだまだ取引先からは総一郎が慕われているのを恭一郎は身を持って知っている。
その理由は分かっていた。あの男はことビジネスにおいて無能なのだが、下町特有の人情味があった。元は下町の小さな町工場から生まれた会社である。
小さな部品を扱う工場からは、総一郎を慕う声が後を絶たない。きっと自分たちと重ねている部分があるのだろう。人情味なんてビジネスにおいて時に邪魔な存在になるというのに。
いつだったか、総一郎は昔から懇意にしている会社が不渡りを出し、切ろうかどうか悩んでいた時期がある。役員会議では満場一致で切ることが望まれた。それにもかかわらず、奴はなかなかその会社を切ろうとしなかった。
なんとか社長を説得して欲しいと役員たちに言われ、恭一郎は腰を上げた。食事の席を設けると、間髪入れずに切れと
啖呵を切った。
奴は分かっていると言ったまま押し黙ってしまった。恭一郎はこの時点でこいつに社長の器はないと見限った。ビジネスは一瞬一瞬の反応が大事である。トップがもたつけば、必ず後手に回ることになる。そうすれば挽回は厄介であるし、何より遅れをとってしまうほどこの会社だって余裕はないのだ。
そう。大手自動車メーカーとはいえ、一寸先は闇だ。見えない先を照らし出せるのは自らの力でしかない。総一郎の人情味は大きな武器なのかもしれないが、使い方によってはまるで役に立たない、むしろ邪魔なものでしかない時がある。それがあの時だった。
だから恭一郎は自ら不渡りを出す会社に出向いた。薄汚れた作業着を着て汗を流す中年の男を捕まえると、さっさと会社を手放せと詰め寄った。それしかなかった。
総一郎は、自分にも部下がいると言った。社員を路頭に迷わせるわけにはいかないと言ったくせに、あの様だ。恭一郎があの時動かなければ、もしかしたら今のTSUBAKIグループはないかもしれない。
人の噂というのは、ネットワークに繋がれた情報のように早く広まるものだ。恭一郎が不渡りを出した会社に出向き、社長を恫喝まがいに詰め寄ったとの噂が流れた。
非情な男とのレッテルを貼られてしまったことに、恭一郎は遺憾な話だと思う。誰のおかげで今のお前たちがあるというのだ。自分じゃ行動を起こせないくせに、いざ人が起こした行動には非難を向ける。嫌われ役に徹してやったというのに。
「難儀なものだよな、麻衣」
恭一郎に呼ばれ、自慰にふけっていた麻衣は、ディルドを肛門から抜いた。ディルドが抜かれた肛門はパックリと穴が開いていた。