第四章「聖菜」
01
 仕事を終えると、恭一郎はフーっと息を吐いた。すでに麻衣の姿はない。夕食作りと、簡単な掃除を任せてあるので、いつも先に帰らせるのだ。
 今頃家で何をしているのだろう。夕食を作っている最中か、掃除をしているのか。麻衣は優秀なメイドだから、いつだって高水準で物事をこなしてくれる。

 もしも。もしも、だ。麻衣が普通の――どこにでもいそうな二十一歳の女だったらと考える。頭は見た目ほどよくないが、オシャレでスタイルがよくて、更には料理上手ときたものだから、彼女のことを放っておく男など皆無だろう。
 ミスコンで一位に選ばれるかもしれない。大学の顔となり、モデルの仕事が舞い込むか、はたまた一般企業に入社して、御曹司とでも結婚をするか。
 幸せな人生。そう。容姿の整った女というのは、(おおむ)ね幸せな人生を歩むはずだ。女なんてものは顔さえよければそれでいい。仕事なんて出来なくても、料理と床が上手ならば男は喜んで養うのだから。

 けれど、ごく稀に――何十万人か、何百万人かの割合でなる難病と同じように、それが当て嵌まらない女がいる。それが麻衣だ。
 父親の借金の肩代わりに売られた哀れな女。十五年間守り続けてきた純潔を恭一郎の手によってズタズタに引き裂かれた女のことを思うと、恭一郎は多少なりとも悲惨だなと思う。
 だが、その反面、自分がいるおかげで今麻衣はこうして生きていられるのだとも思う。下手をしたら犯されるだけ犯されて殺されることだって十分に考えられるのだ。
 役員用のエレベーターに乗り込みながら、恭一郎は昔死んだ女のことを思い出した。

 気の強い女だった。
 麻衣が恭一郎のメイドとなり、一年が過ぎようとしていた頃のことだ。その頃には、ようやく麻衣は恭一郎が望むことを分かってきたようで、徐々に躾けは収まりつつあった。
 そこで恭一郎は、もう一体メイドを買うことにした。一年間女性器はもちろんのこと、肛門まで犯し尽くした麻衣の身体にも飽きてきたから、たまには違う女を抱きたくなった。

 今度は女子大生がいい。社会人になる一歩手前の女。知識はあっても、社会人としての知識に乏しい女に社会の厳しさを身を持って教えてやりたくなった恭一郎は、さっそく麻衣を売ってきた男へ連絡をした。
 男は夢宮といった。『夢を見や』という皮肉めいた偽名だった。連絡をすると、すぐに用意すると受話器越しから力強く言われた。

 それから数日後。仕事中の恭一郎の携帯電話が着信を告げた。相手は夢宮だった。
 電話に出ると、女を用意出来たという。早いなと恭一郎が驚くと、「商売は何事も迅速な対応が求められますから」と、ヘラヘラとした口調が返ってきた。

 さっそく、夢宮と待ち合わせをすると、彼の横には女が立っていた。狐のような目で恭一郎を睨むようにして見ていた女。それこそが『聖菜』だった。

■筆者メッセージ
『東京タワー』『憧憬』に引き続き、聖ちゃん登場です。
ツイッターでのご意見を参考にさせていただきました。意見を募ったのだから出さなきゃ失礼ですもんね。
ええ。それは建前で、本音は好きだから出したまでです笑
一応ここから本格的にスターとって感じになりますかね。
( 2015/12/30(水) 16:09 )