05
麻衣の口の中に放出された欲望の白い塊は、おびただしい量だった。およそ昨夜性交をした人間が出せる量ではない。それほどまでに、恭一郎は強く興奮していたということか。
「まだ飲み込むなよ」
「はひ」
だらしなく口を開けた舌先に乗っている白濁の液体。自分で出した精子の量に恭一郎は見入った。
「舌の上で転がせ」
「はひ」
ワインのように、麻衣はその白濁の液体を舌の上で転がす。おぞましい味を顔にも出さず飲み込むまでに、何度恭一郎に叱られたことだろう。何度躾と称した辱めを受けてきたことだろうか。
おかげで麻衣は精液を飲み込むことなく、舌で転がせられるようになっていた。おぞましい味にも吐き出さなくなっていた。
そう。人はいつか慣れていくものだ。悲しいかな、人間はそういう風に出来ている。そのことに麻衣は感謝した。いつまでも慣れない身体など、欲しくなかった。
「よし。飲み込め」
犬のような扱いにも反抗することなく、麻衣は黙って口の中の物を音を立てながら
嚥下した。中途半端に飲み込もうとすると、粘ついた精液が喉に絡んでしまうのだ。それよりも、こうして一気に飲み干してしまった方がいい。
六年間口の中にも顔にも、髪の毛にも精子をところ構わず放出された麻衣だからこそ、知っている知識だった。普通ならば、そんなことを知らなくとも生きていけるというのに。
「どうだ。美味いか?」
「はい。今日のは特に濃厚でした。麻衣の口に出してくださって、ありがとうございました」
胃の中で精液が広がっているのか、鼻を抜ける息が粘ついた精子の臭いがした。
「今日はいつもより興奮したな。お前もよく頑張った」
恭一郎はそう言って、麻衣の頭を撫でた。飼い犬がご主人の言うことを聞いて、機嫌がよさそうだ。
「麻衣には勿体無いお言葉です」
殊勝なメイドは作り笑顔を振りまいた。心の中では、もはや涙は枯れていた。
その時だった。副社長室に電話の音が鳴り響いた。けたたましく鳴る音に恭一郎は舌打ちすると、受話器を取った。
「はい」
『副社長、お忙しいとところ申し訳ございません。田中です』
内線で電話をしてきたのは、社長秘書である田中だった。秘書は他にもいるが、田中は参謀的な役割だった。
「どうかしましたか?」
『社長がお呼びです』
だろうな、と恭一郎は思った。実の親子だが、会社では社長と副社長の関係だ。第三者の介入を挟むことは、ごく自然だった。
「分かりました。すぐに行きます」
受話器を置くと、恭一郎は乱れた服装を直そうとしたが、一足先に麻衣の手が伸びた。
「社長がお呼びだ。行くぞ」
麻衣の同伴は指名されていなかったが、恭一郎は連れて行くことにした。秘書のいない恭一郎にとって、麻衣はメイドでもあり、同時に会社では秘書でもあるのだ。
「はい。ご主人様」
ただし、麻衣は恭一郎のことは副社長とは言わず、家と同じくご主人様と呼ぶ。役員たちはみなそれを知っているが、それを注意出来る人間は誰一人としていなかった。