09
グラスにワインが注がれる。赤い液体が入ったグラスが二つ並び、その横には似たような色をしたグラスがこれまた二つ置かれた。恭一郎と総一郎の親子がワインに対し、麻衣と美久はグレープジュースだった。
美久はともかく、総一郎は麻衣にアルコールを勧めたが、彼女はやんわりと断った。後片付けのことがあるからかもしれないし、美久をそっちのけで二人の間に入って飲みたくないのかもしれない。
「それじゃあ乾杯しようか」
総一郎の言葉に四つのグラスが伸びる。
「おっと、私が音頭を取っていいかな」
「構わない」
恭一郎の許可を取った総一郎は一つ咳払いをした。
「それでは。私たち“家族”の健康と長寿を御祈念して。乾杯」
「かんぱーい!」
はしゃぐ美久が声をあげ、麻衣も小さく「乾杯」と呟いた。
何が家族だ。何が健康と長寿だ。恭一郎は何も言わず、心の中で嘲笑しながらグラスを重ねた。
「ねえ、ケーキ食べてもいいでしょ」
美久の中ではもうケーキしか目に入っていないようだ。麻衣が困ったような表情で恭一郎のことを見ると、総一郎が割って入った。
「いいじゃないか。さ、お食べ」
ケーキの箱を開けると、美久は椅子から腰を浮かせた。
「わー。いっぱいある」
総一郎が買って来たケーキはホールケーキではなく、様々な種類のケーキだった。定番のショートケーキからタルトまで様々な種類のケーキに美久は目を奪われているようだった。
「どれにしよう」
「全部食べればいいじゃないか」
恭一郎は食べる気がしなかった。甘い物は嫌いではないが、酒を飲んだから食べたくなかった。
「私もいらないな。麻衣さんと二人で食べればいい」
二人の言葉に美久は満面の笑みを見せ、麻衣を見た。
「だって」
「私はこれがいいわ」
どうやら麻衣も狙っている物があったようだ。指を指す麻衣に恭一郎は鼻を鳴らした。
「えー。じゃあ美久は絶対これがいい」
「はいはい。じゃあお皿とフォークを用意するから待ってなさい」
そう言って立ち上がる麻衣に、美久も椅子から離れた。
「美久も手伝うよ」
パタパタと奥へと向かう美久を見ながら総一郎は目を細めた。
「ずいぶんと美久さんは子供っぽいな」
「あいつは十四歳だけど、精神年齢は五歳児だから」
「五歳児、か。確かにそれぐらいに見えるな」
総一郎が何か言いたがっているような気がしたが、恭一郎はそれ以上言うのを止めた。複雑な子である。おそらく、総一郎もそれを察しているのだろう。
「で、親父の本当の目的はなんだ。まさか親子水入らずの食事会なんて
嘘だろ」
「
嘘なんかじゃない。久しぶりにお前とこうして酒を飲むのも悪くはなかろう。まあ、そう邪険にするな」
何か腹の中に隠しているものがあるはずだ。恭一郎は疑いながらワイングラスを傾けた。