01
いつもの無言の車内ではなかった。終始美久が機嫌よさそうに麻衣に話し、たまに恭一郎が口を挟んだ。車内はいつもと違って穏やかな雰囲気が流れている。
ハンドルを握りながら、恭一郎は美久の体調がよさそうなことに安堵した。この旅行をきっかけに、完治すれば言うことはないが、それは望みすぎだろうか。
「でも楽しみです。美久は旅行に行ったことがないから、昨日はあんまり眠れませんでした」
旅行を提案したのは、田中に意見を言われた日だった。帰宅するなり、「旅行へ行こうと」言い出した恭一郎に、麻衣のみならず美久まで目を丸くした。
「まだ到着しないから寝ていてもいいぞ」
サングラス越しにバックミラーを覗くと、歯を覗かせる美久の姿が映った。旅行に行くと決まってから、多少の体調の波はあったものの、比較的穏やかなものに変わっていた。少なくとも、暴れたりタンスの中を荒らすような行動はしなくなっていた。
「そうなんですけど、なんだかワクワクして寝れないんですよ。ね、お姉さまはどうですか」
「私はそうでもないかな。ご主人様が運転しているから、寝ちゃダメだし」
バックミラーでまた後部座席を見ると、苦笑する麻衣の姿が映った。二人とも今日はいつものメイド服ではなく、ワンピース姿だ。せっかくの旅行なのだからと、恭一郎が二人に選ばせ、買ってやった物だ。
「別に寝てもいいぞ。この旅行中は普段の俺たちは止めよう。そうだな。家族として過ごさないか」
家族――恭一郎には縁遠い言葉だった。
もしかしたら憧れているのかもしれない。恭一郎は自嘲した。
「さんせーい!」
後部座席から威勢のいい返事が聞こえてきた。
「麻衣はどうだ」
「ご主人様がそう仰るなら」
麻衣はそう言っていつも通り頭を下げた。
「ほら、麻衣。それじゃあ家族じゃないだろ」
バックミラー越しに見る麻衣は戸惑っていて、恭一郎は笑いそうになった。
「じゃあ、どうすれば」
「お前は俺の嫁。美久は俺たちの子供っていう設定でどうだ」
一瞬、間があった。
「はい。かしこまりました」
「それじゃあ亭主関白っぽいな。まあ、徐々に直せばいい」
長年の関係はそう簡単に崩れはしないようだ。
「パパー。あとどれくらいで着くの?」
まだ付き合いの浅い美久とは大違いだ。
それとも、元からの性格や年齢によりけりか。
「あと一時間半ぐらいだな」
「長いー」
「我慢しなさい」
本当の親子ができたら、こんな会話をしていたのだろうか。ハンドルを握りながら、恭一郎は思った。
架空の家族。それでもこんな自分に家族が出来ている――。
穏やかにそう思っているはずなのに、恭一郎のペニスがムクムクと大きくなり始めた。美久の体調もよさそうだし、久しぶりにその成長過程の身体を楽しむのも悪くはない。いっそのこと、麻衣も混ぜて三人で楽しもうか。
架空の家族は、肉体の関係も持った家族なのだ。