第十章「恭一郎」
05
 夢を見ていた。
 赤く染まる空。夜空を焦がすような空を恭一郎は見ている。

 見ている?
 身体が動かないだけだった。仰向けに寝かされ、器具で固定されてしまったかのように身体が動かないから、仕方がなしに恭一郎は空を見ているしか出来なかった。

 煙がモクモクと空へ昇っていく。瓦礫が崩れる音がする。
 火事だ。大火事だというのに、サイレンの音が聞こえない。それどころか、瓦礫が崩れる音と木々が燃える音しか聞こえない。

 恭一郎はぼんやりと夢を見ているのだと分かった。夢を見て、それが夢だと分かるおかしな夢だ。
 ふと、腹部に“何か”が触れた。長い栗色の髪。麻衣だ。メイドの分際で主人の腹を枕にするなんて、不敬な奴だ。そう思っていると、もう一つ頭が現れた。今度は黒い頭だ。これはきっと美久だろう。
 二人のメイドに枕にされた。不敬なメイド共め。あとで調教してやる。浣腸か。それとも、野外露出か。どちらが先に汚物をぶちまけるか、勝負させるのも悪くない。

「おい――」

 視界はそこで途切れると、今度は見慣れぬ外壁が見えた。真っ白な壁。
 そうか。やはり夢だったか。恭一郎が身体を起こすと、テレビの音が聞こえた。

「おはようございます」

 ソファーに座っていた美久は恭一郎が目を覚ますと、テレビを消した。

「ああ。おはよう。って言っても、朝じゃないけどな」

 時計を見れば、夕方を過ぎた頃だった。行為が終わった後、いつの間にか寝てしまったようだ。

「美久は寝なかったのか」

 酒など飲んでいないのに、頭が締め付けられるように痛かった。変な時間に寝過ぎたか。

「はい。美久はお昼寝はしない人間なのです」

「どうせ夜眠れなくなるからだろ」

 備え付けの小さな冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し、キャップを開けた。

「それもありますけど、怖い夢を見るからです」

「怖い夢?」

 冷たい水が身体を覚ましてくれるようだ。

「はい。夢って確か浅い眠りの時に見るんですよね? 昼寝しちゃうと、夢を見ちゃうんです。怖い夢を」

 子供かとバカにしてやろうと思ったが、実際に美久はまだ子供だった。

「怖い夢、ねえ」

 美久の隣に腰を下ろす。髪を撫でてやると、猫のように目を細めた。

「はい。美久は怖い夢が嫌いなんです」

「好きな人間なんていないさ」

 さっきまで見ていた夢のことを話してやろうか。
 恭一郎はつい先ほどまで処女だった女の唇を奪った。

 ツヤツヤとした唇は微かに震えていた。

■筆者メッセージ
こっちも更新しなくては。


アルビスさん

それはね、どうでしょう。
先は読まれないように書いていますから笑
ツイッターの更新ネタはあんまり考えていません。たまに考えますけど笑
基本その場のノリです。


いつきさん

ありがとうございます。
単なる変態なんですけどね。
これからもボチボチとやらせていただきます。
( 2016/03/17(木) 06:23 )