05
夢を見ていた。
赤く染まる空。夜空を焦がすような空を恭一郎は見ている。
見ている?
身体が動かないだけだった。仰向けに寝かされ、器具で固定されてしまったかのように身体が動かないから、仕方がなしに恭一郎は空を見ているしか出来なかった。
煙がモクモクと空へ昇っていく。瓦礫が崩れる音がする。
火事だ。大火事だというのに、サイレンの音が聞こえない。それどころか、瓦礫が崩れる音と木々が燃える音しか聞こえない。
恭一郎はぼんやりと夢を見ているのだと分かった。夢を見て、それが夢だと分かるおかしな夢だ。
ふと、腹部に“何か”が触れた。長い栗色の髪。麻衣だ。メイドの分際で主人の腹を枕にするなんて、不敬な奴だ。そう思っていると、もう一つ頭が現れた。今度は黒い頭だ。これはきっと美久だろう。
二人のメイドに枕にされた。不敬なメイド共め。あとで調教してやる。浣腸か。それとも、野外露出か。どちらが先に汚物をぶちまけるか、勝負させるのも悪くない。
「おい――」
視界はそこで途切れると、今度は見慣れぬ外壁が見えた。真っ白な壁。
そうか。やはり夢だったか。恭一郎が身体を起こすと、テレビの音が聞こえた。
「おはようございます」
ソファーに座っていた美久は恭一郎が目を覚ますと、テレビを消した。
「ああ。おはよう。って言っても、朝じゃないけどな」
時計を見れば、夕方を過ぎた頃だった。行為が終わった後、いつの間にか寝てしまったようだ。
「美久は寝なかったのか」
酒など飲んでいないのに、頭が締め付けられるように痛かった。変な時間に寝過ぎたか。
「はい。美久はお昼寝はしない人間なのです」
「どうせ夜眠れなくなるからだろ」
備え付けの小さな冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し、キャップを開けた。
「それもありますけど、怖い夢を見るからです」
「怖い夢?」
冷たい水が身体を覚ましてくれるようだ。
「はい。夢って確か浅い眠りの時に見るんですよね? 昼寝しちゃうと、夢を見ちゃうんです。怖い夢を」
子供かとバカにしてやろうと思ったが、実際に美久はまだ子供だった。
「怖い夢、ねえ」
美久の隣に腰を下ろす。髪を撫でてやると、猫のように目を細めた。
「はい。美久は怖い夢が嫌いなんです」
「好きな人間なんていないさ」
さっきまで見ていた夢のことを話してやろうか。
恭一郎はつい先ほどまで処女だった女の唇を奪った。
ツヤツヤとした唇は微かに震えていた。