02
風呂から上がった七瀬と交代して、文也はシャワーを浴び始めた。熱はすでに下がっているはずだった。少なくとも体調は悪くなかったし、あれだけゲームではしゃげたのだから大丈夫のはずだ。
けれども、頭がボーっとしていた。いよいよこれから七瀬を抱くのだと思いながらも、どこかフワフワとしている。それは寝起きの前に見る夢と同じような感覚だった。
「上がったのね」
七瀬が着ているのは、文也の洋服だった。クローゼットを適当に漁って見つけたのは、Tシャツとハーフパンツだった。
テレビ画面は消されていた。万年床の布団に、七瀬は膝を抱えるようにして座っている。
「体調は」
「悪くない。ただ、ひどくボーっとしている」
「それってまだ熱があるせいじゃないかしら」
文也はかぶりを振ると、七瀬の横に腰を下ろした。ドライヤーを持っていないせいで、彼女の髪はまだ濡れていた。
「違う。熱のせいじゃない」
お前を抱くと決めたから――言葉の代わりに、文也は七瀬を抱きしめた。さっきと同じように、彼女の細い身体を抱きしめる。
「するの?」
「ああ」
さっきと同じように七瀬に口付けをする。最初は薄く。一旦離して、今度は深く。
「んっ、ふぅ……」
「色っぽい声を出しやがって」
唇を離すと、透明な糸がツーーと伸びて、切れた。
「あたしだって女ですから」
「そうだよな。七瀬は女だ」
当たり前のことなのに、なぜこうも心臓の高鳴りが抑えられないのだろう。
胸は期待出来そうにないが、おまんこは付いているはずだ。小さな穴にちんこを挿れるだけ。こんな単調なことをしようとしているだけなのに。
「服、脱がすぞ」
童貞でもないのに、小刻みに震える手つきが憎らしかった。こんな調子じゃ、七瀬にバカにされる。ダイエーみたく、お荷物球団呼ばわりされる筋合いなんてない。
獅子だ。自分は常勝の血を受け継ぐ獅子なのだ。
鬣を
靡かせ、グラウンドを疾走する一匹の気高き王者。こんな女を抱くなんてわけないはずだ。
そんなことを思いながら洋服を脱がしていたら、自分では優しく脱がすつもりが、剥ぎ取るようにして脱がしてしまった。Tシャツを放り投げ、ブラジャーを引き剥がすようにして脱がす。これじゃあ童貞のやることか、レイプ犯のやることじゃないか。
「文也さん、怖い……」
胸を腕で隠しながら、七瀬は怯えていた。無理もない。脱がした文也自身、やり過ぎたと思ったのだから。
「あ、ああ。悪い」
文也は乾いた唇を舐めると、胸を隠す七瀬の腕を退かした。
「小さいでしょ」
小高い丘が二つ並んでいた。乳輪も乳首も、何もかも小さかった。
「ああ。でも、最初から分かっていたからな」
「何それ。ひどいなあ」
「違う。そういう意味じゃない。胸が小さいお前だと分かっておきながら、俺はお前と付き合うって決めていたんだ」
頭がのぼせ上がったようにボーっとして、まともな思考回路なんて持っていなかった。だから言っていることはメチャクチャだと自覚している。
文也は頭を掻くと、もう喋らないでおこうと決めた。余計なことを言って、七瀬の気が変わるのが怖かった。