04
改めて、文也は七瀬の部屋を見渡した。七瀬の部屋は至ってシンプルだった。机と椅子、ローテーブルとベッド、そして本棚だけだった。
ぬいぐるみもなければ、カーテンも水色で、男のような部屋だった。
「ちょっと。あまりジロジロ見ないでよ。急に来られたから、掃除をしていないし」
「綺麗だよ。単に物が少ないからかもしれないけどな」
もう少し物がなければ、そのまんま独房だなと文也は思ったが、自分の部屋もさして変わらないのでそれを口に出すことはなかった。
「あまり物をごちゃごちゃ置くのは好きじゃないわ」
「そんな感じだろうな。で、俺は昨日いつ潰れた」
文也は先ほどまで寝ていた場所へ戻り、あぐらをかいた。
「時間は覚えてないけど、あのお店を出る頃には出来上がっていたはずね。もう。ここまで運んで来るのにすごい苦労したんだから」
起き上がった七瀬は、壁を背に両足を抱えるようにして座った。寝巻きだけはピンク色で、そこだけが女らしかった。
「覚えてないな」
「でしょうね。あなたって面白いのね。酔い潰れてもライオンズのことばかり」
「俺からライオンズを取ったら何も残らないからな」
酔い潰れてなお、ライオンズのことに執着している自分を文也は誇らしいと思った。自分の血には、王者の血が流れている。
「羨ましいわ。そこまで熱中出来るものがあって」
「七瀬にはないのか」
七瀬はかぶりを振った。
「ないわ。人生を捧げられるほどのものもなければ、寝る間を惜しんで熱中出来るものもない」
「寂しい奴だ」
「ええ。だからこそ、人類が滅びることを願っているのかもしれない」
文也は返答に困った。七瀬に言われ、自分も信じるようにはなったが、未だこの手の話題は苦手だった。
外からはバイクの音が聞こえる。エアコンの稼動する音がする室内で、二人は会話をなくした。
どうして人類が滅びることを願っているのだろう。
文也はずっと疑問に思っているのに、いざ七瀬を前にするとそれが言い出せなかった。なんだか、触れてはいけない気がした。
「会社」
「ん?」
「会社、どうするの? 今日、行く?」
クリクリとした七瀬の目と目が合った。この女は小動物のようにつぶらな目をしている。
「ああ、行くよ」
「一回家に帰る?」
文也は時計を見た。そろそろ始発が出る時間だった。
「ああ、そうしようかな」
さすがに着替えたかったし、昼間外回りに出ていたからシャワーも浴びたかった。
「そう。最寄の駅は分かるかしら」
文也はかぶりを振った。
「いや。分からない」
「そう。じゃあ送って行くわ」
「悪いな」
酔い潰れて迷惑をかけたことには言わなかった台詞が、今になってスッと出たのを文也は不思議に思った。