03
二度目の眠りから目を覚ますと、頭痛はしなくなっていた。代わりに、喉の渇きを覚えた。文也は起き上がると、七瀬の姿を探した。
そうすると、彼女はベッドの上で寝ていた。夏場だというのに、厚手の毛布に
包まるようにして寝ている。変わった女だ。冷え性なのだろうが、文也にはそれが爬虫類のように見えた。
「飲み物もらうぞ」
声をかけても返事はなかったが、文也はそのまま冷蔵庫を探した。どうやら今いる場所は寝室のようだ。文也は部屋の扉を明けると、すぐ右手側に冷蔵庫を見つけた。
自分の家のように、冷蔵庫を開けると、調味料に混じってペットボトルのお茶を見つけた。中身はすでに半分ほどがなくなっていたが、文也は
躊躇うことなくキャップを開け、中身を一気に飲んだ。
空になった容器を冷蔵庫の上に置くと、文也は用を足すことにした。反対方向へと歩き、扉を開けると、文也は扉を閉めることなく、立ったまま用を足し始めた。先ほど、自分が粗相をしたことなんてすっかりと忘れていた。
ジョボジョボと音を立てる尿はビール臭かった。水面に泡を作ったそれを眺めながら、文也は水洗レバーを傾けると、トイレを後にした。
寝室に戻ると、七瀬は相変わらず寝ていた。文也は今、気がついたが電気は点けたままだった。おかげで部屋の中をよく見渡せた。
七瀬が眠るベッド脇にある目覚まし時計を見ると、時刻は四時過ぎだった。平日だから、今日も仕事だ。この部屋でしっぽりと七瀬と過ごすわけにはいかない。そう思うと、落胆した。せっかく女の家まで来て、セックスすら出来ないなんて。
いや。もしかしたらすでに“ヤった”か? 記憶にないだけで、七瀬とセックスをしたかもしれない。そう考えると、ファスナーが開いていたことも説明がつく。
あやふやな記憶を呼び起こそうとしながら、文也はハッとした。避妊はしたか。慌ててベッドのそばに置いてあるゴミ箱を除くと、コンドームを探す。
「人の家のゴミ箱を漁るなんて、文也さんそんな趣味を持っていたのね」
ゴミ箱の中を浮浪者のように漁っていると、背後から声が聞こえ、文也は振り返った。そうすると、毛布の隙間から目が見えた。まるで汚物を見るかのような
蔑んだ目だった。
「違う。好きで漁ってたんじゃない。避妊はちゃんとしたのかと思ってな」
「ああ。セックスはしてないわよ。あなた酔い潰れてグーグーといびきをかいて寝てたし」
そうか。セックスはしていなかったか。安心したような、それでいて勿体無かったなと思いながら文也はゴミ箱から離れた。
「俺は酔い潰れていたのか」
「ええ。それはもう」
悪かった――その一言が文也の口から出て来ることはなかった。