03
喫茶店でアイスコーヒーを飲みながら、文也は窓の向こうに目をやった。窓ガラス越しでは、顔面を黒く塗った若い女たちが
闊歩している。いつから日本はアフリカ人のような顔色になったというのか。
汚い髪の色。黒く塗られた肌。奇抜な彼女たちにとってやがて自分の子供を産むことになるだろう。その時まともな教育が出来るものか。他人事とはいえ、そう遠くない未来である。もし自分の部下が、入社してきた新人がそんな母親を持つ子たちばかりになったら、今の会社は存続しているかどうかさえ怪しかった。
「さっきから窓の方ばかり向いてどうしたのかしら。可愛い子でも見つけた?」
アイスティーのレモンをストローで突きながら、七瀬が訊いてきた。文也は七瀬の方に振り向くことなく答える。
「いや。ただ、変なのがたくさんいるなって」
「ああ。どうせ日本どころか、この世界は今年で滅びるんだから好きなことをやっていればいいわ」
またか。ノストラダムスの大予言を信じている七瀬に聞こえるように、文也は大きな溜め息を吐いた。
「なあ、前も訊いたかもしれないが、本気で信じているのか?」
「本気よ。あたしは本気で人類は滅亡するって信じてる」
何が信じている、だ。くだらない。文也はテーブルを引っくり返したい衝動をグッと堪えた。人類の滅亡なんて、ゲームの話だ。ファイナルファンタジー7の受け入りもいいところだ。
「どうしてそんなにも確信を持って言えるんだ?」
イライラとしながら文也は言った。物覚えの悪い子供を相手にしているわけではないのだ。
「確信じゃないわ。願望、と言えばいいのかしら」
それまで、意識して七瀬と目を和せないようにしていた文也だが、その言葉にハッとしながらつい七瀬のことを見た。
目は合わなかった。彼女は顔を伏せていた。
「七瀬さん。願望ってなんですか、願望って。そんなことを強く願っていつも生きてるんですか。くだらない」
確信を持っているように見せかけておいて、
蓋を開けてみれば願望とは。しかも顔を伏せている。自信がないのなら、そんなこと人には言わず胸にしまっておけばいいものを。
文也は噛んでいたガムを吐き捨てるように言うと、ストローを使わずにアイスコーヒーを一気に口の中へ入れた。小さくなった氷だけが口の中に残る。
それをガリガリと音を立てながら噛んでいると、七瀬はようやく顔を上げた。
「くだらないかもしれないわ。ううん。きっと文也さんが正しい。でも、あたしはノストラダムスの大予言を信じて疑わないわ。それだけが希望だから」
これならいっそのこと、宗教の勧誘の方がはるかにましだ。文也は舌打ちすると、身体をダラリと背もたれに預けた。