第二章
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 居酒屋を出ると、七瀬はさっさと先を歩いて行った。どうやら着いて来いといっているようだ。文也は七瀬の後ろを着いて歩いた。
 大通りを右に入れ、脇道へと入る。土曜の夜は人で賑わいを見せていたが、小道に入ると一気に人の気配は薄れた。
 どこまで行くのだろう。公園と言っていたから、近くの公園だと思っていたが、どうやらお目当てがあるようだ。
 
 どれぐらい歩いただろう。ビールを飲んでいたから、文也は尿意を覚え始めていた。どこかのコンビニでトイレを借りようと思ったが、近くに見当たらない。
 あまりに我慢が出来なくなったら、壁にでもしてやろう。女の前で排尿をするなんてと非難されるかもしれないが、トイレがないのが悪いし、七瀬だったらおそらく意に介さないはずだ。
 おおらかというわけじゃない。むしろ細かすぎるところがある。しかし、人に興味のない部分も同時に持ち合わせている。
 
「着いたのか?」
 
 ようやく七瀬の足が止まった。よくある公園だった。
 
「ええ。ちょっと迷子になったけど、無事に」
 
 迷子になっていたのか。だったらそう言えばいいのに。だがそれを口に出す前に、文也にはすることがある。
 
「そうか。ちょっと小便をして来てもいいか」
 
「お好きなように。なんならここら辺でもいいわよ」
 
 辺りを見渡してもトイレらしき建物は見つからなかった上、七瀬がそんなことを言うものだから、文也はここでしてやろうと思った。
 七瀬に見せびらかすようにジーンズのチャックを下ろし、いざペニスを出そうとすると、七瀬はさっさと歩いて行ってしまった。
 
「おい、待てよ」
 
「この先で待ってるわ。さっさと済ませなさい」
 
 文也は舌打ちすると、木の幹へ向かって勢いよく放尿した。我慢をしていたせいで、ビール臭い尿が長く出続ける。
 たっぷりと木の幹へ排尿すると、文也は長く息を吐いた。射精の快楽もいいが、こうして我慢して放出する尿の後も、なかなかに快感ではある。
 
 スタスタと公園の奥へと行ってしまった七瀬の姿を探すと、暗がりの中ブランコの音が聞こえた。まさかと思って行くと、七瀬だった。
 ブランコへ近付くにつれて、キコキコと金属が擦れる音が大きく聞こえる。七瀬の表情は暗くて分からないが、きっと無表情なのだろう。
 
「あなたっていつも遅いのね」
 
 近くまで行くと、やっぱりまた七瀬は文句を言った。待ち合わせのたびに文句を言う女だ。
 
「ずっと我慢してたからな。おかげでスッキリした」
 
「そう。よかったわね」
 
「一緒に着いて来た男が立ちションしてるって、普通引くと思うけどな」
 
 ブランコの音が徐々に小さくなっていく。
 
「じゃあ、あたしは普通じゃないのかもしれないわね。分かっていたけど」
 
 文也が目を向けると、七瀬のクリッとした丸い目と目が合った。


■筆者メッセージ
いやあ、先週末はしんどかったです。
おかげでストックはおろか、更新すら出来ませんでした。
けれど、今週末も危険な香りがするんですよねえ。
プレミア12どころじゃないですよ、ほんとに(笑)
( 2015/11/16(月) 21:07 )